研究実績の概要 |
腫瘍や幹細胞などの新規マーカー探索および感染や免疫反応の分子病理学的解明において、迅速簡便な糖鎖解析技術であるグライコミクスは必須の技術となりつつある。しかしながら現在のグライコミクスは主にN-結合型糖鎖を対象としており、もう一つの糖鎖種であるO-結合型糖鎖の分析については40年以上進歩しておらず新たな技術革新が切望されている。最近、研究代表者はO-結合型糖鎖の新規遊離法を発見し、従来より格段に微量な分離検出を可能とした。これをグライコミクスへ応用するためには分離したO-結合型糖鎖の簡便な同定法の開発が必須である。そこで本研究では、O-結合型糖鎖の大規模ライブラリーを作成し、HPLC, CEおよびタンデム質量分析における各糖鎖の分析固有値を蓄積して糖鎖同定のための新たなグライコミクスの技術基盤を構築することを目的としている。 令和元年度は、昨年度に開発したグリコシル化スレオニンのアミノ基に蛍光標識を導入してから、糖転移酵素固定化ビーズによる糖鎖伸長反応により、多様な糖鎖構造を有するグリコシル化スレオニンを調製することを試みた。酵素反応生成物の単離精製は、HPTLCを水平型TlC展開漕にて展開し、蛍光を発するバンドを目視で確認してシリカゲルを削り取り、アセトニトリル水溶液にて抽出する方法を確立した。この方法により、コア4(GlcNAcβ1-3(GlcNAcβ1-6)GalNAc)スレオニン、コア2(Galβ1-3(GlcNAcβ1-6)GalNAc)スレオニンを蛍光標識し、順次、糖鎖伸長する検討を進めた。その結果、スレオニンのアミノ基に電子吸引性の高い蛍光標識基を用いると糖鎖が脱離する傾向が高まることが判明した。この問題を踏まえ、そのような効果を持たない蛍光標識として7-メトキシクマリンカルボン酸アミドを用いる方法を確立した。
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