研究課題
本年度はモミラクトン生合成遺伝子クラスターの発現制御に関わる既知転写因子のうち、昨年度に解析を開始した野生イネにおけるbHLH型転写因子DPFホモログについて、更なる機能追究を行った。まず、DPFの野生イネにおけるホモログ遺伝子として、O. rufipogon, O. punclata, O. brachyantha, Leersia perrierriの4種すべてから、DPFの完全長をカバーするcDNAをPCRにより取得した。これらの遺伝子について、昨年度までに構築していた栽培イネのプロトプラストにおけるジテルペン型ファイトアレキシンの生産誘導について検討したところ、すべてのDPFホモログに、栽培イネにおけるジテルペン型ファイトアレキシンの誘導活性が認められた。次に、モミラクトン生合成に関わるP450酸化酵素遺伝子であるCYP99A2のプロモーターに対する野生イネDPFの転写活性化能をイネ葉身への導入により評価した。その結果、4種すべてのDPFに、栽培イネでのCYP99A2への転写活性誘導が認められた。これらの結果から、野生イネにおいてもDPFがジテルペン型ファイトアレキシンの生産誘導を担う転写因子であり、CYP99A2への直接的な制御を行う可能性が考えられた。また、DPFが直接結合する可能性も考えられる他のモミラクトン生合成遺伝子としてOsKSL4に着目し、そのプロモーター領域を欠損させたゲノム編集株の整備を進めた。今年度は、野生イネと栽培イネで共通して高い保存性を示す領域を欠損したヘテロ個体を確立できたので、ホモ個体を取得し、その解析を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
初年度に計画した3つの項目のうち、属種を超えた関連転写因子の機能解析についてはDPFの野生イネホモログの解析が順調に進み、成果の論文化の目処がたった。その他の計画では、遺伝子クラスター内のシス配列の解析については、OsKSL4プロモーター上のOsTGAP1結合配列に対するゲノム編集株の解析をペンディングし、より広い範囲で欠損をもつゲノム編集株の作出をまず進めて、最終年度に総合的に解析する事としたため結果の取得が遅れているが、研究計画を通して順調に進んでいると考えている。また、イネ以外のモミラクトン生産植物であるハイゴケのゲノムシーケンスから、クラスターの存在が確実となってきたことから、論文報告のプライオリティーを考えクラスター内遺伝子の機能解析に注力した。そのため、当初計画のHpDTC1に対する制御因子の同定については、来年度に持ち越す事になった。しかし、DPF変異体の解析から、モミラクトン生合成能が低下した場合に、モノテルペンの生合成遺伝子がその制御因子と共に発現変動を示すなど、付加的に予定していなかった部分で興味深い結果も得ており、全体としては概ね良好な進捗状況であると判断する。
最終年度となる(平成31年度)令和元年度の研究推進方策については、これまでの2年間の成果を受け、若干の計画修正も含みつつ、各研究項目別に以下のように進め成果をまとめる予定である。①属種を超えた関連転写因子群の機能解析について:野生イネのDPFホモログについて、ファイトアレキシン生産誘導と転写活性化能における機能が明らかになってきたので、野生イネで未知のジテルペン化合物生産を行っていると予想されるO. brachyanthaのクラスター領域に着目し、その制御に対するDPFの機能解明を目指す。それに先立ち、クラスター領域内のP450についての機能解析を進める。これまでに得られたRNA-seqデータを基盤として、上記の機能解析結果加えて成果をまとめる。②クラスター領域内に存在するシス配列の解析:これまでに作出済みの栽培イネOsKSL4遺伝子とOsCPS2遺伝子のプロモーター領域ゲノム編集株について、ホモ個体を選抜し、まずはファイトアレキシン生産への影響と、クラスター内の近傍遺伝子の転写誘導に対する影響を解析することで、本アプローチによるシス因子の重要性について、一通りの結論を導く。③イネ以外のモミラクトン生産植物の解析:ハイゴケのゲノムシーケンス結果を受け、モミラクトン生合成遺伝子クラスターの存在証明の報告をまず行うこととし、そのために必要なハイゴケクラスター内遺伝子の機能証明をおこなうと共に、クラスター内遺伝子の発現に影響をあたえる転写制御因子の探索を進める。
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