研究課題/領域番号 |
17H03813
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
園山 慶 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (90241364)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 食品機能 / プレ/プロバイオティクス / 腸内細菌叢 / 細胞外小胞 / microRNA |
研究実績の概要 |
本研究では、食品-腸内細菌叢-宿主生理の連関を、循環血中の細胞外小胞(extracellular vesicle, EV)に 含まれるmicroRNA(miRNA)が媒介するという仮説について、とりわけ、難消化性オリゴ糖が肥満およびメタボリックシンドロームを抑制するという既に知 られた現象をモデルとして、以下のように検証を進めた。 Ⅰ. 循環血中のEVを放出する細胞として、腸内細菌叢が直接曝露する大腸上皮細胞を想定し、マウスの大腸粘膜から陰窩を分離してマイクロアレイによりmiRNAプロファイルを解析した。その結果、腸内細菌叢を変化させる難消化性オリゴ糖の摂取は、大腸粘膜陰窩のmiRNAプロファイルを変化させなかった。 Ⅱ. 腸内細菌叢による難消化性オリゴ糖の主要発酵産物である短鎖脂肪酸が大腸上皮細胞のmiRNAプロファイルを変化させる可能性について、マウスの大腸オルガノイドを培養して検証した。すなわち、酢酸、プロピオン酸および酪酸を大腸オルガノイドの培地に添加して培養し、オルガノイドのmiRNAをマイクロアレイにより解析したが、プロファイルに変化はみられなかった。 Ⅲ. 粘膜固有層の単核球は粘膜上皮細胞からのシグナルを介して腸内細菌叢の影響を受けるのに加え、樹状細胞は腸内細菌叢との直接的な接触を有する。そこで、マウスの大腸粘膜固有層の単核球を分離してマイクロアレイによりmiRNAプロファイルを解析したところ、難消化性オリゴ糖の摂取による変化が観察され、それはRT-qPCRによって確認できた。 以上の結果は、腸内細菌叢の変化が大腸粘膜上皮細胞ではなくて粘膜固有層の免疫細胞のmiRNAプロファイルに影響をおよぼし、そのような細胞が放出するEVが循環血中EVのmiRNAプロファイル変化に寄与する可能性を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究実施計画として、腸内細菌叢ならびに血中EVおよび組織のmiRNAのプロファイル解析を実施するのに加え、腸内細菌叢が血中EVおよび組織のmiRNAプロファイルを変化させることを糞便細菌移植により検証することとしていた。前者に関しては計画通りに実施したが、後者に関しては、糞便細菌移植によってレシピエントマウスの腸内細菌叢がドナーマウスの腸内細菌叢を反映することを確認したものの、血中EVおよび組織のmiRNAプロファイルの解析にまでは至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定に加えて未実施の項目について以下のように進める。 Ⅰ. 腸内細菌叢が血中EVおよび大腸粘膜固有層単核球のmiRNAプロファイルを変化させることを、抗生剤処置マウスへの糞便細菌移植により検証する 。 Ⅱ. 肥満およびメタボリックシンドロームならびにそれらの予防・改善への関与が推測されるmiRNAとその標的遺伝子の関係性について、RIPアッセイによるmiRNA-mRNAペアリング解析およびmiRNA mimicsおよびinhibitorsを用いた表現型解析を、培養細胞およびマウスを用いて実施する。 なお、当初は、腸内細菌叢が大腸上皮細胞のmiRNAプロファイルに影響することを想定して大腸オルガノイドを用いた研究を計画し、とりわけ、腸内細菌叢の各種要素をマイクロインジェクションによりオルガノイド内腔に注入する予定であった。しかしながら、研究実績の概要に述べたとおり、難消化性オリゴ糖摂取による腸内細菌叢の変化にともなって大腸上皮細胞のmiRNAプロファイルは変化しなかったため、オルガノイドを用いた解析は一旦中止する。
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