研究課題/領域番号 |
17H03817
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
下村 吉治 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30162738)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分岐鎖アミノ酸 / 代謝調節 / 筋肉 / コンディショナルノックアウト / マウス |
研究実績の概要 |
分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素(BCKDH)キナーゼ(BDK)は、分岐鎖アミノ酸代謝の重要な調節酵素である。これまで実施してきたBDK活性に対するチアミンピロリン酸(TPP)とCaイオンの作用に関する研究において、生理的細胞内濃度のCaイオンによりTPPによるBDK阻害作用は著しく増大することを発見した。よって、生体内ではCaイオンがBCAA代謝を調節することが判明した。 これまでBDKの組織特異的KOマウスを作製し、研究を実施してきた。本研究では、筋特異的BDK-KO(BDK-mKO)マウスと正常Controlマウスに通常食(20%タンパク質食)もしくはタンパク質含量を5%または2.5%まで減らした低タンパク質食で1週間飼育した。その後、BCAAを経口投与し、骨格筋中のBCAA濃度とS6K1のリン酸化量を測定したところ、ControlとBDK-mKOマウスのいずれにおいても、食餌タンパク質量による筋BCAA濃度に対する影響はなかったが、両マウスともに低タンパク質食摂取によりS6K1のリン酸化が有意に上昇し、特に2.5%タンパク質食を摂取させたBDK-mKOマウスで最も高値を示した。すなわち、食餌タンパク質の著しく低い食餌で短期間飼育すると、マウス(特にBDK-mKOマウス)の骨格筋のmTORC1の反応性が有意に上昇することが判明した。 一方、BDK-mKOマウスは運動持久力が低下することをこれまでの研究において観察したが、我々は本研究において、運動持久力に強く関係する筋グリコーゲンを回復する能力について検討した。その結果、運動後の筋グリコーゲン回復力はBDK-mKOマウスで低下していることが判明した。 脳神経におけるBCAAの機能を検討するために、本研究では前頭部興奮性ニューロン特異的BDK欠損マウス (Emx1-BDK-KOマウス)の作製に挑戦し、成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた研究は、概ね順調に進行している。CaイオンによるBCAA代謝調節に関する研究は、一応決着がついたと判断している。今後は、BDK-mKOマウスおよびEmx1-BDK-KOマウスを用いた研究が中心となる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
BDK-mKOマウスにおける筋タンパク質合成に関する研究では、低タンパク質食と共に3%BCAA水を摂取させるとBCAAによる筋mTORC1活性化がどのように変化するかを検討する。さらに、このmTOC1活性化の増大を利用して、効果的に筋原線維タンパク質を増大する食事法についても検討したい。 BDK-mKOマウスの低下した筋グリコーゲン回復力については、運動直後から3%BCAA水を与えることによりBDK-mKOマウスの筋グリコーゲン量の回復が改善されるかを検討し、筋グリコーゲン代謝に対するBCAAの作用を確認する。 脳神経特異的BCAA代謝亢進マウス(Emx1-BDK-KOマウス)においては、尾懸垂による後肢の抱えこみ動作を指標にして脳神経系機能の異常を明確にすると共に、その異常が発生する直接的な原因について検討する。その方策として、Emx1-BDK-KOマウスに低タンパク質食を与えて飼育し、より脳内のBCAAが不足した状態での脳神経機能について検討する。さらに、脳の組織切片を用いてより詳細にBDK発現の有無を調べることが重要であろう。
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