分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素(BCKDH)は、分岐鎖アミノ酸 (BCAA)代謝系の第2ステップに存在するBCAA代謝調節酵素である。BCKDHは、特異的kinase (BDK)によるリン酸化で不活性化される調節を受ける。 これまでの研究では、筋特異的BDK欠損(BDK-mKO)マウスと正常Controlマウスに通常食(20%タンパク質食)もしくは低タンパク質(5%または2.5%)食で1週間飼育し、その後BCAAを経口投与して骨格筋中のS6K1のリン酸化量を測定したところ、ControlとBDK-mKOマウスのいずれにおいても低タンパク質食摂取によりS6K1のリン酸化が有意に上昇し、特に2.5%タンパク質食を摂取させたBDK-mKOマウスで最も高値を示した。本研究では、上記の1週間飼育期間中に3%BCAA水を与えて飼育し、同様にBCAA経口投与の反応を調べたところ、S6K1のリン酸化は全ての群で低下し、低タンパク質摂取またはBDK-mKOの影響は消失した。これらの結果より、タンパク質 (BCAA) 不足はアミノ酸シグナル経路を介してmTORC1の感受性を上昇させることが示唆された。 BDKを全身で欠損させたマウスでは、各組織でBCAA濃度の低下が見られたほかに尾懸垂時に後肢を持続的に強く閉じる動作などの脳神経機能異常を起こすことが報告されている。本研究では前頭部興奮性ニューロン特異的BDK欠損(Emx1-KO)マウス)を作製し、その特徴を解析することでニューロンでのBCAA代謝亢進の影響について調べた。その結果、Emx1-KOマウスは前頭部でBCAA濃度が低下し、尾懸垂テストで後肢を持続的に強く閉じる脳神経機能異常が見られたことから、興奮性ニューロンにおけるBCAA代謝制御は正常な脳神経機能維持に重要であることが示唆された。
|