研究課題/領域番号 |
17H03820
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
山地 亮一 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (00244666)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ビタミンA / β-カロテン / レチノイン酸受容体 / 筋管細胞 / 骨格筋 / マイオカイン |
研究実績の概要 |
転写因子であるレチノイン酸受容体(RAR)はビタミンA(ATRA)をリガンドとして活性化する。申請者はビタミンA前駆体のβ-カロテンを摂取したマウスでは、RARアイソフォームのRARγの活性化を介して骨格筋が肥大(筋量が増加)し、筋力も増加することを発見したが、RARγを介して筋肥大が起こる詳細な分子機構は不明である。骨格筋が量的・質的に向上するために鍵因子となるRARγの役割を明確にするため、本研究ではRARγの制御下にある筋肥大誘導因子を同定し、その分子機構を解明するとともに、RARγ自体の発現制御系も明らかにすることを目的とした。筋肥大誘導因子に関しては、特にRARγに依存して分泌されるマイオカインに着目して研究を進めた。ATRAで刺激した筋管細胞の培養上清は筋管細胞におけるタンパク質合成を促進したので、筋タンパク質の合成に寄与するマイオカインを探索するため、ATRAに応答する遺伝子をRNA-sequenceにより網羅的に解析した。得られたデータをMagic Suiteで解析し、ATRAにより発現が2倍以上増加した遺伝子を細胞外および細胞内プロテオームのナレッジベースであるMetazSecKBを利用してさらに解析し、分泌タンパク質の候補を絞った。また発現が10倍以上に増加した遺伝子に関する情報を集め、分泌される可能性のあるものを選別した。これらの上位から組み換えタンパク質を作製し、筋管細胞に及ぼす影響を検討し、transglutaminase 2 (TGM2)が筋管細胞を肥大化させることを見出した。TGM2はAkt、mTOR、p70S6Kのリン酸化を促進し、一方、mTOR、PI3K、Srcに対する阻害剤はTGM2によるmTORとp70S6Kのリン酸化を阻害した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ATRAで刺激した筋管細胞の培養上清は筋管細胞におけるタンパク質合成を促進したので、筋タンパク質の合成に寄与するマイオカインを探索するため、ATRAに応答する遺伝子をRNA-sequenceにより網羅的に解析し、得られたデータをMagic Suiteでさらに解析した。ATRAにより発現が2倍以上増加した遺伝子を細胞外および細胞内プロテオームのナレッジベースであるMetazSecKBを利用してさらに解析し、分泌タンパク質の候補を絞った。また発現が10倍以上に増加した遺伝子に関する情報を集め、分泌される可能性のあるものを選別した。これらの上位から組み換えタンパク質を作製し、筋管細胞に及ぼす影響を検討し、transglutaminase 2 (TGM2)が筋管細胞を肥大化させることを見出した。TGM2はβ-カロテンを摂取したマウスのヒラメ筋で発現が2倍に増加していることも確認した。さらにin vitro実験により細胞外のTGM2がタンパク質合成に寄与するmTOR系を活性化することも見出し、シグナル伝達経路についての情報も得ており、順調に進んでいる。一方、今年度骨格筋でRARγを高発現するマウスを作製してRARγの筋肥大における役割の検討を開始している予定であったが、発現ベクターの作製が遅れ、現在、マウスにアデノ随伴ウィルス(AAV)法を用いて骨格筋でRARγを高発現させている最中である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はTGM2が骨格筋でATRAに応答して細胞外に分泌され、筋管細胞に対してタンパク質合成シグナル系のmTOR経路を活性化して、タンパク質合成を誘導することを見出した。しかし細胞外TGM2が作用するmTORの上流の標的タンパク質は不明である。そこで本年度はTGM2がどのような細胞表面の受容体を介して筋肥大を誘導するのかも検討するため、tag付き組み換えタンパク質と相互作用するタンパク質をtagに対する抗体で免疫沈降し、LC-MS/MSで同定し、相互作用機序およびmTORへのシグナル伝達経路を解析する。さらにTGM2の発現を直接RARγが制御しているのかも含めて、転写調節機構をプロモーター解析やクロマチン免疫沈降(ChIP)解析より評価する。さらにH29年度に解析し、分泌タンパク質の候補として絞った遺伝子を順次解析する。また骨格筋でRARγに応答して筋肥大に関わる遺伝子を探索するため、筋管細胞においてRARγを高発現させ、RNA-Seqにより網羅的に解析し、ATARで発現の増加した遺伝子と比較検討する。そこで発現の亢進した遺伝子がin vivoでも同様に発現が制御されているのかをアデノ随伴ウィルス(AAV)を利用して骨格筋でRARγを高発現させたマウスを用いて解析する。またAAV-RARγ高発現マウスの骨格筋を単離し、骨格筋を量的・質的に比較する。具体的には筋線維の断面積を解析し、筋力を測定するとともに、組織学的・生化学的に筋線維の4つのタイプを解析する。さらにRARγの高発現がmTORシグナル経路に及ぼす影響についても検討する。
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