研究課題/領域番号 |
17H03825
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
種子田 春彦 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (90403112)
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研究分担者 |
福田 健二 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30208954)
矢崎 健一 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (30353890)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水ストレス / 木部構造 / 仮道管 / 水輸送 |
研究実績の概要 |
枝の凍結・融解時に起きる通水阻害は、風衝環境に生える常緑針葉樹の主要な枯死原因となる。申請者らは、亜高山帯性常緑針葉樹であるシラビソ(Abies veitchii)を用いた研究から、凍結融解による通水阻害が、仮道管内腔への気泡の侵入だけでなく、壁孔の閉鎖によっても起きることを発見した。 ・2019年度は、乾燥ストレスにあるシラビソの枝では、凍結と融解だけで壁孔の閉鎖が起きることを実験的に確認した。 ・壁孔閉鎖は茎の木部を流れる水の流速に依存して、壁孔膜のトールスが動いて壁孔口を閉鎖することで起きると考えられる。そこで、通水能力(通水コンダクタンス)と流速の関係を30種の針葉樹とヤマグルマ(水の通導にトールス-マルゴ構造のない仮道管だけを持つ被子植物)を使って確認した。茎の通水能力が低下し始める流速は0.3から 2.1 m/hと多様で、これらは茎の通水能力に比例して高くなった。また、流速の増加に対する通水能力の低下(両者の傾き)はヨーロッパモミの-0.03からユサンの-0.4まで極めて多様だった。放射型走査電子顕微鏡を使ってこれらの種における仮道管の解剖学的な特徴を観察し、壁孔閉鎖に関わる壁孔膜のふるまいを説明する因子を探索している。 ・気泡が侵入して空洞化した仮道管に再充填が再充填することを実験的に確認するために、シラビソの枝で人工的に起こした空洞化の挙動をMRIを用いて追跡した。ドイツトウヒを用いた実験室内での通水能力の回復をみたMayrら報告に基づいて、1年生までの枝葉を水に浸した状態で3日間放置し、空洞化した仮道管の変化を観察した、しかし、現在まで変化は見られず、再充填が起きる条件を探っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の測定から、枝の凍結と融解による壁孔が閉鎖する現象とこれによって通水阻害が起きることを実験的に明らかにできた。また、研究協力者である丸田恵美子博士とオオシラビソにおいても凍結時に野外で壁孔の閉鎖と通水阻害を確認した。さらに、30種の針葉樹を使って壁孔の閉鎖する流速を測定し、シラビソで私たちがこれまでに測定していたのと同じオーダーにあることを確認した。これらの結果から、凍結時の壁孔閉鎖現象が針葉樹型の仮道管を持つ多くの種でみられることが示唆された。現在、これらの結果で論文を作成している。また、東京大学農学部の石川雅也博士とシラビソやオオシラビソの凍結温度や凍結速度の測定に着手した。 一方で、MRIを用いた通水阻害が起きた枝への水の再充填現象については、人工的に起こした空洞化領域での観察を試みた。しかし、今回の実験では再充填現象は確認できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
風衝環境における常緑針葉樹の通水阻害とその回復のメカニズムを明らかにするため、今年度は以下の実験を予定している。 (1)生活形や生育する気候帯の異なる針葉樹を使って、実験的に枝の凍結融解を起こし、壁孔の閉鎖による通水阻害の起きる樹種を引き続き探索する。亜高山帯に分布するオオシラビソや、シラビソより温暖な気候に分布するスギとアカマツの茎で研究分担者である矢崎健一氏と壁孔閉鎖を観察する。 (2)MRIを用いた木部内の水分布の経時変化の非破壊的な測定によって通水阻害からの回復過程の可視化を引き続き行う。これは、研究分担者である福田健二教授と協力して行う。 (4)風衝環境での通水阻害の原因のひとつである大きな木部張力は、針葉の障害によるクチクラ蒸散の増加によって起きることが示唆されている。どのくらいの増加で木部張力の増大や通水阻害が起きるのかを定量的に評価する。 (5)凍結時の壁孔閉鎖のメカニズムを明らかにするために、枝の凍結速度の測定を行う。凍結速度が高いほど壁孔閉鎖の頻度が上がる、という仮説のもと、東京大学農学部の石川雅也氏と測定を行う。同時に、茎を流れる水の流速と壁孔閉鎖の関係の多様性と、これを説明する仮道管の解剖学的な特徴を明らかにする
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