研究課題
本研究の目的は、複数流域における観測を元に、森林が持つ水質浄化機能がいつ、どのように、どの程度発揮されるかを水移動と水質形成のメカニズムに基づいて解明することである。このため、10分以下の短時間間隔での長期にわたる渓流水と地下水の水質観測を実施する。これを元に降雨時を含めた「森林の水質浄化機能」を、従来とは異なり、メカニズムに基づいて定量的に評価する。多様な水文条件を持ち、かつ気候変動影響を受ける森林流域管理に対して、研究成果を応用することを究極の目的としている。研究2年度目は前年度に購入したセンサーを設置し観測を行った。2台のうち1台は滋賀県内の森林流域において地下水の観測を前年度から開始している。もう1台は岡山県内の森林流域にて渓流水の観測を開始した。滋賀県内の森林流域にて渓流水の観測に用いている既設のセンサーからは、硝酸イオン(NO3-)濃度、溶存有機態炭素(DOC)濃度ともに、流量の変動に対して鋭敏に応答しているが、流量-濃度関係は一定ではなく、場合によって異なることが明らかになった。この成果を2018年9月に水文水資源学会にて、また2018年12月にアメリカ地球物理学連合にて報告し、海外サイトで同様の研究を行う研究者らと議論を行った。この応答パターンは他の森林流域でも同様なのか、またそのメカニズムはどうなっているのかを、岡山県内の観測との比較、地下水の観測との比較から、それぞれ考察する。
2: おおむね順調に進展している
装置購入に時間が掛ることは、このような研究が国内初の事例であり、取扱業者自体が不慣れであることを含めて想定通りであった。このような点を含め、今後国内にこの手法を普及させる際のノウハウ蓄積につながっており、実際に国内の研究者から装置導入に関する問い合わせを受けている。センサーを用いた観測成果については、既に国内外の学会において報告を行っており、成果が得られている。同時に、センサーを用いない定期的な観測も順調に継続しており、化学分析によるデータ蓄積が進んでいる。さらに、水質形成を考える上で必要不可欠な降雨流出過程の検討については、降水量、流量、地下水位の短時間間隔連続観測を継続して行っている。
観測データは順調に蓄積しているため、これ以降は試行錯誤により安定したデータ取得を進めていく。地下水では、泥による濁り成分が観測の妨げとなることが明らかになったため、それを避ける工夫を行っている。また、岡山県内の森林流域では商用電源が利用できず、ソーターパネルによって駆動させている。このため、日照の少ない降雨時に安定して観測できるように調整している。同時に、冬期の積雪が多い地域であるため、冬期には装置を撤収するなど、装置の故障を避けつつ、なるべく長期のデータを得られる工夫を重ねながら、解析につなげる。最終年度の解析では、滋賀県と岡山県の結果を並列に見て、森林状態の違いと水質特性との関係から、森林の水質浄化機能が発揮されるメカニズムを検証する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 7件) 備考 (1件)
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