研究課題/領域番号 |
17H03834
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
寺澤 和彦 東京農業大学, 生物産業学部, 教授 (30414262)
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研究分担者 |
阪田 匡司 国立研究開発法人森林研究・整備機構, その他部局等, 主任研究員 等 (50353701)
森下 智陽 国立研究開発法人森林研究・整備機構, その他部局等, 主任研究員 等 (90391185)
常田 岳志 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 主任研究員 (20585856)
渡邊 陽子 北海道大学, 農学研究院, 研究員 (30532452)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 地球温暖化 / メタンフラックス / 湿地生態系 / 樹幹メタン放出 / 冷温帯林 / 北方林 / メタンソース / 木材中のガス移動 |
研究実績の概要 |
本研究では、中高緯度の各地の代表的な湿地林を対象として、湿地生態系における重要なメタン放出経路と考えられる樹木の幹からのメタン放出量(Stem Methane Flux:以下SMF)を観測して変動要因を明らかにするとともに、樹幹から放出されるメタンの生成場所と輸送経路に関する検討を行うことを目的としている。 平成29年度は、①北海道東部の汽水湖に隣接するハンノキ林、②アラスカおよびカナダの永久凍土地帯のトウヒ林、③エストニアのミズゴケ湿地のマツ林で調査を行った。 北海道では、ハンノキとヤチダモのSMFを無雪期に定期的に観測した。SMFとその季節変動には土壌環境の異なる3地点間で顕著な違いがみられ、地下水位、溶存メタン濃度、溶存硫酸イオン濃度などが関わることが示された。 アラスカでは、土壌水分や凍土環境の異なる3か所でトウヒ2種とカンバのSMFを7月と9月に観測した。両月とも地下水位の高い湿地ではトウヒ2種の樹幹からわずかなメタン放出が認められたが、斜面のトウヒとカンバでは検出限界以下であった。カナダのクロトウヒでも同様の結果であった。 エストニアでは、土壌水分環境の異なる2地点でヨーロッパアカマツのSMFを7月に観測した。地下水位の高い湿地では樹幹からわずかなメタン放出が認められたが、地下水位がやや低い場所では検出されなかった。 樹幹放出メタンの生成場所に関しては、北海道の調査地において、樹幹放出メタンと土壌間隙水中のメタンの炭素安定同位体比(δ13C)を測定し、それぞれのδ13Cの変動幅や両者の対応関係などについて検討した。 樹幹内でのメタンの輸送経路に関しては、ハンノキとヤチダモを含む落葉広葉樹数種の樹幹試料を用いて、メタン拡散速度の測定を行った。また、同試料を用いて基本三断面の薄切片を作成し、とくにガス移動の観点から木材組織構造の顕微鏡下での観察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、「課題1:中高緯度地域の各種の湿地林における樹幹からのメタン放出量とその変動要因」と「課題2:樹幹から放出されるメタンの生成場所と輸送経路の特定」の2つの課題を設定して研究を進めている。 課題1については、当初の計画どおり、中緯度に位置する北海道東部のハンノキ林の既設調査地において、樹木の幹からのメタン放出量(Stem Methane Flux:以下SMF)と土壌環境要因の定期観測を行い、SMFの季節的および空間的な変動に及ぼす要因を明らかにした。また、高緯度地方においても、当初の計画どおり、アラスカ内陸部およびバルト海沿岸(エストニア)の北方系の針葉樹を主とする湿地林に調査地を設定し、夏から秋にかけてのSMFを土壌水分環境の異なる複数地点で観測して一定の傾向を見出すとともに、当初は予定していなかったカナダの湿地林においても同様の観測を実施した。 課題2については、北海道のハンノキ林の既設調査地において、樹幹放出メタンと土壌間隙水中のメタンの炭素安定同位体比(δ13C)を測定し、両者の対応関係から樹幹放出メタンの生成場所の検討を行うためのデータを蓄積した。一方、樹幹内でのメタンの輸送経路に関しては、ハンノキやヤチダモの小径木試料を用いてガス移動に寄与すると考えられる木材解剖学的な特徴の検討を行うとともに、当初計画していなかった調査項目として、木材解剖学的特徴の観察対象とした樹幹試料のメタン拡散速度を測定し、解剖学的特徴との関連などについて検討を行った。 以上のように、今年度に得られた研究成果は、本研究の目標達成に向けた1年目の成果として十分なものとみなされ、本研究計画はおおむね順調に進行していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
課題1については、北海道東部のハンノキ林の既設調査地において、ハンノキの幹からのメタン放出量(Stem Methane Flux:以下SMF)と環境要因の観測を継続し、SMFの変動要因に関するさらに詳細な検討を行う。これまでのSMF観測によって、とくに夏季にSMFの急激な増加が観察されていることから、5~7月のSMF観測頻度を高めて環境要因(地下水位など)の変動との対応関係を詳細に検討する。 一方、高緯度地方に関しては、H29年度に引き続いてアラスカ内陸部とエストニアの湿地林でのSMF観測を実施する。アラスカ内陸部では、春季の凍土表層の融解期を含む2~3回の観測を行い、昨年度の結果とあわせて春~秋季におけるSMFの概要の把握を行う。エストニアでは、ミズゴケ湿原のヨーロッパアカマツを対象として、湿原中央部~辺縁部~隣接斜面という異なる地形系列上でのSMF観測を夏季に予定しており、SMFと土壌水分環境との関係に関するデータが得られるものと期待している。 課題2については、北海道東部の既設調査地において、炭素安定同位体による標識メタンを用いた野外実験を実施し、樹幹放出メタンの生成場所が土壌であることの検証を試みるとともに、樹幹内のメタン輸送様式に関する検討を行う。樹幹内のメタン輸送経路に関しては、ハンノキやヤチダモの樹幹の木部と樹皮の組織構造に関するさらに詳細な観察と実験を行う予定である。
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