研究課題/領域番号 |
17H03838
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
志知 幸治 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (10353715)
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研究分担者 |
酒井 英男 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 名誉教授 (30134993)
芳賀 和樹 公益財団法人徳川黎明会, 徳川林政史研究所, 非常勤研究員 (00566523)
内山 憲太郎 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (40501937)
宮本 麻子 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (50353876)
岡本 透 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 等 (40353627)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スギ / 日本海地域 / 花粉分析 / DNA分析 / 分布適域モデル / 歴史史料解析 / 林相図 / 磁気分析 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、日本海北部地域のスギを対象に、花粉分析、磁気分析、DNA 分析、分布適域モデル、歴史史料解析、GIS 手法を組み合わせた分野横断型研究を展開し、気候変動の影響がスギの拡大に及ぼした影響と人間活動が近世以降のスギの縮小に及ぼした影響を明らかにすることを目的としている。今年度も採取した堆積物の花粉分析、スギ天然林集団のDNA解析、歴史史料および林相図の収集を継続して行った。 魚津埋没林堆積物の花粉分析から、カシやナラを主体とする落葉広葉樹林が約2000年前にスギを主体としハンノキ属やトネリコ属を含む湿地林へと変遷したことが明らかになった。全国のスギ天然林34集団、計1057個体を対象に、葉緑体SSR10座について解析を行ったところ、66のハプロタイプが検出されたが、地理的な傾向は認められなかった。そこで、スギの全葉緑体配列から新たに23座のSNPマーカーを設計して解析を行った結果、多型性の認められた10座の情報から15のハプロタイプが検出された。集団を4つの遺伝グループにわけ、ハプロタイプの頻度を調べたところ、北日本と屋久島グループでそれぞれ3つの特有のハプロタイプが検出され、地域性を反映することが強く示唆された。 江戸時代初期に作成された正保国絵図の描写、正保郷帳の記載に基づき秋田地域の山地植生を把握できるか検討を開始し、藩ごとに山柄の記載が異なっているものの、絵図の描写と郷帳の記載はある程度一致していることが確認できた。秋田県旧荒瀬村について森林計画資料附帯の林相図を用いて昭和初期以降約90年間の林相変化を復元し、昭和初期には国有林の1割ほどであったスギ林面積が3割まで増加したことが明らかになった。北秋田市阿仁地域における花粉分析結果と周辺地域の歴史史料の記述を比較したところ、江戸時代以降では阿仁地域の鉱業発展や森林管理によってスギ林が増減したことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去のスギ林変遷の解明に関して、北陸地方の各地で堆積物試料の採取およびその分析を進め、スギ林が増減する時期や要因の共通性を明らかにすることができた。また、スギの分布拡大過程の推定に関して、全国のスギ天然林集団における葉緑体SSRプライマー多型情報の解析を進め、地域性を示唆する北日本と屋久島グループに特有のハプロタイプを検出することができた。過去の人為影響の評価に関して、江戸時代以降の絵図や歴史史料の解析を進め、阿仁地域における花粉分析結果との対比により、鉱業の盛衰に伴う森林管理の変化がスギ林の増減に影響を与えていたことを示すことができた。成果の公表に関して、鳥海山周辺のスギ林変遷と人為影響に関する論文を発表するとともに、2019年3月に日本森林学会第130回大会の企画シンポジウムにおいて「スギの分布変遷を古森林学的研究手法から明らかにする」を開催した。このように、当初の計画通りに研究を遂行できたことから、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに採取した未分析試料の花粉分析を進め、東北から北陸地方における過去1万年間のスギの変遷を明らかにする。全国のスギ天然林の一部の集団を用いて、核ゲノム全体を対象とした制限酵素断片配列の網羅的解析を行い、各地域の過去の集団動態を明らかにする。これらの分析結果を過去1万年間に拡張したスギの分布適域モデルの出力結果と比較することで、スギの消長に及ぼした気候変動の影響を推定する。秋田県阿仁地域を中心に古文書、絵図等の収集を継続し、江戸時代以降のスギ林の変遷を明らかにする。旧荒瀬村における森林資源の経年変化について立地要因との関係を明らかにする。こうした知見を、江戸時代以降の詳細な花粉分析結果と比較し、スギの増減を引き起こした人為影響を推定する。
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