本申請者は2014年頃から、セルロースを原料にして、周期的な分子らせん構造を自己組織的に形成するコレステリック液晶の合成とそのブラッグ反射を利用したフルカラー材料への応用に関する研究を進めている。地球上で最も豊富に存在する炭水化物であるセルロースは、植物の光合成で水と二酸化炭素から生成したグルコースが脱水縮合することで作り出される。セルロースの化学構造は、グルコースモノマーユニットが交互に環平面の上下の向きを変えながら結合しており、全体として直線状に伸びている。高分子間で働く多数の水素結合により、セルロースの高分子主鎖が強く結びついた結晶領域が存在しており、高い強度を持つ“かたい材料”である。ここ最近の研究のトレンドとして、鉄鋼よりも1/5の軽さでありながら5倍の機械的強度を持つセルロースナノファイバー(CNF)は注目を浴びている。 2016年頃、ある種の架橋性ヒドロキシプロピルセルロース誘導体が全可視波長領域で反射特性を示すだけでなく、ゴム弾性も兼ね備えたコレステリック液晶エラストマー膜になることを発見した。前述のように、セルロースはCNFに代表される“かたい材料”と思われがちだが、興味深いことに、本申請者らの研究により、セルロースの側鎖に適切な官能基を導入すると、反射特性とゴム弾性を併せ持つコレステリック液晶エラストマーという“やわらかい材料”になったのである。このセルロースのコレステリック液晶エラストマー膜を機械的に圧縮すると、圧縮した局所領域だけ反射色が可逆的に変化する。よって、ひずみ可視化フィルムとして応用できる。この成果は日刊工業新聞や日経産業新聞などの新聞記事に掲載されるだけでなく、テレビ東京の番組にも出演し、社会に広くアピールすることができた。さらに、科学技術振興機構 大学等知財基盤強化支援制度の審査にも合格し、PCT国際出願の支援を頂くことができた。
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