研究課題
海洋の微生物ウイルスは、宿主の溶菌を通じて有機物の流れを変え、物質循環過程に深く関与する。本課題は包括的ウイルスメタゲノム(ビローム)解析法を応用し、微生物・ウイルス群集を高解像度に解析し、新たな海洋生態系の理解に向けた基盤を構築する。本年度の成果は次の通りである。1)大阪湾湾口部において、優占微生物・ウイルス群集の月ごとの変動を解析した。rRNAアンプリコン解析により優占微生物系統(原核: 46 OTUs, 真核: 49 OTUs)を、ビローム解析により優占ウイルス(2212コンティグ)を同定した。これらの優占系統の共起ネットワーク解析により、計3719個の有意な正の相関関係を見出した。2)海洋優占系統バクテロイデス門細菌のウイルスを、宿主未知の環境ウイルスゲノム1420個から生物情報学的手法により探索した。既知本門ウイルスと系統的に異なる26属の本門ウイルスを同定した。3)環境中から細菌を系統特異的に分取し、感染中の細胞内ウイルスを同定する新規手法の構築に先駆け、海洋ラン藻の特異的分取法を確立した。環境中からラン藻を自家蛍光に基づき105細胞分取し、約95%の純度で回収できた。4)淡水ラン藻ミクロキスティス群集のメタトランスクリプトーム解析により、本種ウイルスの転写動態が系統の差異に関わらず周期性を示すことを明らかにした。また宿主ゲノム上のウイルス感染履歴配列に基づき群集構造解析を行い、ウイルスとの相互作用により本種個体群組成や存在量が影響を受けることを示した。
2: おおむね順調に進展している
ラン藻を対象とした系統特異的分取法の確立と、海洋微生物・ウイルス間の3000を超える潜在的相互作用を明らかにすることができたため上記の評価 となった。
大阪湾以外の海域の微生物・ウイルス群集構造を解析し、日本近海におけるウイルス-宿主系の地理的分布を明らかにする。またFISH法の応用により系統特異的分取法を拡大し、細胞内ウイルスの同定によるウイルス-宿主感染系の網羅的な実証を行う。
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Marine Biotechnology
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http://www.microbiology.marine.kais.kyoto-u.ac.jp/