研究課題/領域番号 |
17H03854
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
和田 実 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (70292860)
|
研究分担者 |
石松 惇 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 教授 (00184565)
鈴木 利一 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (20284713)
松下 吉樹 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (30372072)
嶋永 元裕 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 准教授 (70345057)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 貧酸素 / 酸性化 / 閉鎖性内湾 / 微生物呼吸 |
研究実績の概要 |
昨年度に続いて大村湾内の貧酸素と酸性化状況の定量的把握を軸に観測したところ、湾中央部の海底直上水において夏季に顕著な酸性化が進行しており、通常のpH範囲(7.8-8.2)を大きく下回る7.59を示した。このとき炭酸カルシウム飽和度(Ω)は1を下回り、炭酸カルシウム骨格を形成する生物を強く阻害することが示唆された。昨年度と今年度の2年分の観測データに基づいてpH変化に関わる環境因子を調べたところ、溶存酸素(DO)、水温およびクロロフィル蛍光値(Chl.a)が選ばれ、このうちDOの寄与率が最も高く(66.58%)、DOとpHは強い正の相関を示した(r=0.794, n=162)。一方、貧酸素後期には、湾南部において顕著なDO低下にもかかわらずpHが下がらない水塊も発生していた。このようなDO低下と酸性化が同調しない水塊の生成には酸素と二酸化炭素を同時に消費する化学合成独立栄養細菌が関わっている可能性が考えられたことから、その検証に取り組んだ。pHと他の環境因子の関係式に基づいてpHの予測値を求め、実測値との残差(ΔpH)を酸性化抑制の指標としたところ、中央部と南部で見られた高ΔpHの水塊(最大0.161)では、化学合成独立栄養性細菌の一種であるアンモニア酸化古細菌(Thaumarcheaeota)の存在割合が増加していた。また、2018年8月後半と10月に中央部の底層水を培養すると、溶存態無機炭酸イオン(DIC)が減少し、特にアンモニア添加区でDICの減少が顕著だった。これらのことから、Thaumarcheaeotaによる酸素の消費と二酸化炭素の固定が貧酸素水塊における酸性化の緩和に寄与することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大村湾の底層水において夏季に貧酸素化と酸性化が同時進行することは2年間の定量観測によって確実となった。その原因として微生物呼吸の寄与が最も大きいことも強く示唆され、炭酸カルシウム骨格を持つ水産資源生物に対する複合影響について初めて定量的な結果を示すことができた。一方、貧酸素および酸性化の多重ストレスの影響評価のため、炭酸カルシウム飽和度を推定し、炭酸カルシウム骨格をもつ水産生物がストレスを受けている可能性が高いことを示した。
|
今後の研究の推進方策 |
微小なプランクトン群集の定量解析のために画像解析装置を活用する予定だったが、装置の不具合により実施できなかったので、今後は環境DNAなどの手法なども取り入れて、貧酸素期の水産植物、動物の行動・分布状況を推定し、多重ストレスに関する調査・検討を加速する。
|