研究課題/領域番号 |
17H03856
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
宗原 弘幸 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (80212249)
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研究分担者 |
藤本 貴史 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (10400003)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遺伝学 / 水産学 / ゲノム / 遺伝学集団構造 / 半クローン / 系統寿命 |
研究実績の概要 |
30年度は、昨年度において未完であった、半クローンに関わる遺伝子の特定に関わる部分の研究を進めた。また、人工交配で新規半クローンを再現する実験は、本研究の課題名「ホストを乗り換え永続するアイナメ属半クローンゲノムの起源と進化、遺伝子の特定まで」の根幹であるため、この部分も進めた。 遺伝子の特定に関わる部分では、次世代シーケンサーを使ったRNA-seqで、半クローンの卵形成において、不働の遺伝子群を検出した。これは、半クローンが突然変異で新たな機能を持った遺伝子を想定していたが、その反対に働かない遺伝子があって、その下流のカスケードが機能しないというものである。しかし、減数分裂する際に働くとみられる中心体に関与する遺伝子が働かないことなどから、「分裂を誘導する段階での遺伝子欠損」とする仮説は、むしろ合理的と評価した。 アイナメ属半クローンは、これまで知られている半クローン6生物タイプのうち、唯一の海産生物である。半クローンは個体数増殖速度が親種よりも速いため、2つの親種と共存する初期状態から、半クローンが増殖には必要とせず、競争関係にある母種を駆逐するまでの遷移期間は、生息域が狭い場合、短期間であると考えられている。アイナメ属の場合、海洋であるため、生息域が広く、局所的には母種が駆逐される遷移後の安定期であっても、半クローンのいない生息地で母種は存在し、半クローンゲノムが母種集団に還元し、組み替え世代を経て、半クローンゲノムがリニューアルし、長期間存続できる仮説が成り立つ。この仮説の実証ために、半クローンが、その父種と母種との交配頻度を調べる調査を行い、半クローンが母種の雄と交配していることを突きとめた。これは、染色体遺伝マーカーが開発できたためで、半クローンが実際に還元していることを、初めて突きとめた。半クローンの集団構造に関して、全く新しい考え方が提案できるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度進めた研究の中で、「スジアイナメ集団に還元された半クローンゲノムがクジメと交雑し、新規ゲノムセットを持った半クローンの再現を試みる交配実験」において、人工交配する親魚が初回成熟のため、卵が小さく、稚魚の育成が上手くいかなかった。そのため、前年度は「やや遅れている」という評価をしたが、成熟に漕ぎつけ、この遅れを挽回できた。また、「2系統の半クローンと母種スジアイナメを含む集団構造の成り立ちを解明するための野外調査」は、順調に進み、論文投稿した。サイエンスに始まり、総合誌を順に攻めたが、良い評価のレフェリーもいたが、総合的にはアクセプトには至らなかった。専門雑誌に投稿先を変えた。 本研究では、遺伝子の特定という、ミクロな解析部分と、野外調査と採集した材料を遺伝マーカーで分析する部分、それに系代飼育による遺伝様式を解析する部分からなっている。初年度は、飼育などで遅れがあったが、2年目ではそれを取り戻し、野外調査も遺伝子解析も、順調に進んでいる。しかし遺伝子解析の部分で、学会発表を行ったが、標本数が少ないという指摘があり、より精度の高い分析が必要となったことから、「計画以上に進んでいる」という評価はできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの半クローンに関わる遺伝子の特定に関わる部分の分析例数が不十分だったため、これを本年度は増やすことを最優先の分析事項とする。また、半クローンで、あらたな変異が起きている、という予想とは異なる結果が出て、働かない遺伝子があることから半クローンになることが分かった。これはRNA-seq解析の成果であるが、この方法で検出できるのは、半クローンと通常個体との遺伝子発現の差である。遺伝子発現のカスケードを考えると、不働遺伝子の上流にこそ、半クローンのスイッチを入れる遺伝子があると考えられる。そのため、細胞分裂周期に関する既往の文献から、スイッチに関わる遺伝子の発現解析を行う。ここをしっかり抑えることが出来ると、今後、遺伝子編集によりノックアウトで確かめることが可能になる。 野外調査と系代飼育による解析は、順調に進んでいる。半クローンと母種の雄との交配を介した半クローンゲノムの還元までは、昨年の野外調査で確認できた。今年度は、還元された半クローンゲノムがスジアイナメ集団に混合(ゲノムシャッフリング)していく部分の調査をすすめる。これにより、半クローンと母種を含んだ集団の遺伝学的構造の解明にあたる。また、飼育でも半クローンの再現実験を行える準備が出来たので、これをテストする。 以上から、リニュアルした半クローンゲノムの再現と野外におけるその証拠の獲得、および半クローンに関わる遺伝子の特定と分子基盤を明らかにする研究を推進する。
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