研究課題/領域番号 |
17H03858
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 直樹 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (30502736)
|
研究分担者 |
良永 知義 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (20345185)
高橋 計介 東北大学, 農学研究科, 准教授 (80240662)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | Perkinsus olseni / 寄生 / アサリ / 血球 / 生体防御 / 宿主特異性 |
研究実績の概要 |
研究年度1年目の平成29年度はP. olseniの感染体である遊走子がアサリへ侵入する際の部位を特定、さらに侵入時には遊走子が侵入部位に局在するタンパク分子を認識することが示唆された。ただし、P. olseniが感染しないとされる貝類も類似のタンパク質を保有することが示唆されており、P. olseniがアサリに蔓延する理由は侵入機構からだけでは説明できないと考えられた。 次に宿主であるアサリは他の二枚貝に比して体内に侵入したP. olseniの排除能力が低いことを想定し、アサリの生体防御の中核をなす血球によるP. olseni栄養体の排除能力を検討した。その結果、アサリ血球が異物排除時に示す殺微生物活性は低下しており、P. olseniを貪食しても排除する能力は低いことが示唆された。 また、P. olseniはアサリへ感染後、活発な増殖を繰り返すことで宿主の衰弱をもたらすことが知られているため、in vitro培養系を用いて本種の増殖制御機構についても検討を行った。これまでのところ、急激な細胞増殖後に培地内のタンパク分解酵素活性が上昇する結果が得られた。このタンパク分解酵素は宿主への障害や増殖制御に関与する可能性がある。 さらに、本研究ではアサリに蔓延するP. olseniと蔓延していないPerkinsus属近縁種との性状比較を計画しているが、今年度は国内のムラサキイガイに寄生するP. beihaiensisの分離株樹立に世界で初めて成功し、今後の比較検討を行う体制を整えた。さらに、P. olseni、P. beihaiensis、P. honshuensisの栄養体ステージの細胞表面糖鎖解析を実施、各種は異なる細胞表面構造を有することを明らかにしている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究計画のうち、侵入門戸の同定と上皮細胞層突破機構の解明に関しては、侵入部位の特定は終了した。計画していたex novo実験による侵入像の観察はまだ行っていないが、実施するにあたっての基盤的知見は得られた。遊走子の変態誘起因子の特定についてはタンパク性であること、および当該分子の分離と同定を行う際に使用するアッセイ法の確立がほぼ完了している。アサリの液性因子がP. olseniの生残、増殖におよぼす影響評価に関しては、in vitro培養実験系によりその存在を示唆する結果が得られ、分子解析を進めていく基盤的知見を得た。栄養体表面の糖鎖解析は糖鎖アレイは予定通り終了し、栄養体の代謝経路についても実験を進める目処がたった。 一方、P. olseniのアサリ間伝播機構に関しては予備的フィールド調査を実施した結果、フィールドでの実施が難しそうな見通しである。そこで、水槽を用いた人為的条件下による実験について計画立案が必要と考えられた。Perkinsus属3種のアサリに対する寄生適応性の比較については実験が終了し、概ね計画通り進んでいる。 なお、平成30年度に実施する予定であった宿主体内における生体防御回避機構については、計画よりも早く実験が進行している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度は前年度に完了できなかった上皮細胞層突破機構の解明と遊走子の変態誘起因子の同定を中心に進めていく。また、アサリの液性因子がP. olseniの生残、増殖におよぼす影響評価に関しては因子の同定を進めると共に、アサリの液性因子をP. beihaiensis、P. honshuensisのin vitro培養系に加え生残、増殖を検討、宿主特異性との関連について調べていく。 アサリ血球によるPerkinsus属原虫排除機構に関しては、Perkinsus属3種の栄養体表面にある糖鎖との相互作用、およびPerkinsus属原虫の貪食回避システムについてさらなる解析を進めていく。 P. olseniのアサリ間伝播機構に関してはフィールドでの実験実施が困難であったため、水槽内における実験計画を策定し、早期の実施を目指す。
|