研究課題/領域番号 |
17H03862
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
萩原 篤志 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (50208419)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 水産種苗生産 / 餌料生物 / ワムシ / カイアシ類 / 遊泳行動 / 生理活性物質 |
研究実績の概要 |
過去に行われていた、魚のアラ(本研究ではマサバを使用、以下FWDと略)を用いた動物プランクトン培養を、2種のワムシ類について再現実験を試みた。Brachionus rotundiformis(SS-type)では、FWDに小麦粉を混合することによって、最高密度(1188±67.7個体 ml-1)が得られ、再現性も最も高かった(CV 7.47±1.68%)。これらは、微細藻Chlorella vulgaris単独給餌時よりも優れていた。培養水中にはPseudomonas sp.ほか3種の細菌が優占した。FWDの給餌でワムシはDHA 0.35、EPA 0.39 mg g-1を含有し、DHA/EPA比は0.9で高い餌料価値を示した。次に、FWDを0~0.5 g/Lとし、超小型ワムシProales similisの培養を比較したところ、FWD 0.75g/L(微細藻無添加)によりワムシの増殖率は最大となった(1605/mL)。以上では、FWDの分解に起因すると判断される粒径2.5ミクロン以下の粒子が増加し、細菌とFWD分解物が餌料源になっていると推察された。以上を通じ、40-50年前に国内で一般的に見られたワムシの粗放培養を再現できたが、活発で不規則な遊泳行動を再現するには至らなかった。ワムシに比べ高い遊泳能力をもつカイアシ類については、鶏糞抽出液(CME)添加により、既報のハルパクチス目のTigriopus japonicusと同様に、カラヌス目のEurytemona affinisについても個体群増殖を増大できる(1.3倍)ことを確認した。T. japonicusに対するCME添加のメカニズムを検討した結果、CME中に含有する0.22 μm以下の大きさの物質(E2以外)が、T. japonicusの繁殖に効果を与えていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
かつて国内で一般的に見られたワムシの粗放培養を再現できた。ワムシの活発で不規則な遊泳行動を再現するには至っていないが、神経伝達物質(GABA)の添加により、改善の兆しがある。また、カイアシ類については、鶏糞抽出液中に生殖と行動を活性化する物質があることをつきとめている。以上より、おおむね順調と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1.実験1:魚のアラを用いた動物プランクトン粗放培養の再現と安定化 前年度に引き続き、ワムシの行動を活性化する「鍵物質」の探索を継続する。前年はカイアシ類で多くの成果を挙げることができたが、ワムシについては、安定的な培養を実現でき、栄養組成も優れたワムシを作出できたが、目標としていた遊泳活性の高いワムシの再現に至らなかった。そこで、前年度に試したマサバ以外の魚種のアラを用いるほか、鶏ガラ、鶏糞等を培養水に入れることにより、40-50年前に国内で一般的に見られたワムシの粗放培養を実施する。当時は普通に見られた活発で不規則な遊泳行動を再現すると共に、行動解析によって指標行動を特定する。 実験2:優れた餌料の指標行動と、その行動を活性化する物質の特定 ワムシの行動を活性化する「鍵物質」として、天然動物プランクトンの主要な摂餌対象である珪藻、ハプト藻、クリプト藻に含まれるが、現行のワムシ培養時の餌料であるクロレラに不足している物質を検討する。すなわち、微量元素のセレン、ヨウ素、ケイ素などのほか、ワムシの活性を上昇させる γ アミノ酪酸、鶏糞抽出液に含まれる天然エストロゲン等について、汎用餌料生物への投与効果を検討する。次に、ワムシ粗放培養時(実験1)の餌料源となる魚体の抽出物に着目し、 crude な抽出物に汎用餌料生物への投与効果がみられる場合には、成分分画を行い LC/MS、TOFMS で物質を特定した後、汎用餌料に投与し、指標行動が発現するか調べる。
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