研究課題/領域番号 |
17H03862
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
萩原 篤志 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (50208419)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 水産種苗生産 / 餌料生物 / ワムシ / 遊泳行動 / 生理活性物質 |
研究実績の概要 |
ワムシは無菌下では個体の活力が低下する(Hagiwaraら、1994)。粗放的な屋外培養ではワムシの遊泳活性が増加し、活発な増殖を示すことが、仔魚飼育用餌料としてワムシ培養が導入された1970,80年頃の経験として知られている。その当時、魚のアラを培養槽に浸漬した培養が通常行われていたことから、本研究でもその添加を試したが、これまでのところ、増殖を確認したに留まっている。今年度は、1)プロバイオティクスの添加によるワムシの培養安定化と行動への影響、2)アスタキサンチン添加による遊泳行動への影響、3)ワムシの活力向上に効果があると推測される不飽和脂肪酸の生合成について検討した。その結果、次の結果が得られた。1) Nannochloropsis oculata(対照として使用)に市販のプロバイオティクス数種を添加したところ、Toaraze Aqua(東亜薬品工業(株))の併用によって、対照に比べて増殖率と最高到達密度が上昇した。遊離アンモニア濃度は毒性を示すレベルに達することはなく、培養の安定化がみられた。両性生殖の誘導には顕著な影響がなく、遊泳行動の変化を検出することはできなかった。2)アスタキサンチン添加(20 ug/mL)によってワムシの遊泳速度が対照よりも速くなり、水温 30℃では 1.2倍上昇した。3)本種は8種類の不飽和化酵素遺伝子を有し、系統解析により、それぞれ2,5,1種類のΔ4、Δ5/6、Δ9不飽和化酵素に分類された。給餌した微細藻のTetraselmis suecicaの脂肪酸組成と比較して、T. suecicaを給餌した本種の体成分として、より多くの種類の脂肪酸が検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ワムシ培養槽に魚のアラを用いた場合、良好な培養が起こらない場合もあり、培養槽内の細菌相が安定していないことが原因していると推測された。そこで今年度は、魚のアラや鶏ガラを加えたワムシ培養槽に、市販のプロバイオティクスで、ワムシ培養の安定化を図ろうとした。その前段として、微細藻(N.oculata)と数種の市販のプロバイオティクスの併用の影響を検討し、効果のあるプロバイオティクスの選定に時間を要したため、魚のアラ等を用いた培養実験を年度内に終了できなかった。一方、ワムシの行動を活性化する「鍵物質」として想定される、アスタキサンチンと不飽和脂肪酸の効果を一部つきとめると共に、ワムシ体内での生合成過程を明らかにすることができた。また行動解析ソフトを用いた遊泳行動解析に米国NIHのImageJを導入することにより2Dでの詳細な評価が可能になることも分かり、以上より順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に効果が見つかったプロバイオティクス(Toaraze Aqua)の添加実験を継続し、魚のアラ等を用いた培養中のワムシの活力と生殖に与える影響について研究を継続する。ワムシの行動を活性化する「鍵物質」として想定される、アスタキサンチンと不飽和脂肪酸の効果の検証についても研究を継続する。ここで、アラで培養したワムシに両性生殖を誘導させ、形成された耐久卵の孵化に始まる個体群を用いた研究を新たに実施する。ワムシは耐久卵を経由することにより、その前の世代の環境により適応した形質を示すことが分かっており、その知見をここに適用する。これによって、本研究の最終目標としている、遊泳活性が高く複雑な遊泳を行うワムシの再現を目指す。これを用いた仔魚飼育への効果についても検証したい。
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