研究課題/領域番号 |
17H03865
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研究機関 | 公益財団法人目黒寄生虫館 |
研究代表者 |
小川 和夫 公益財団法人目黒寄生虫館, その他部局等, 館長 (20092174)
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研究分担者 |
脇 司 公益財団法人目黒寄生虫館, その他部局等, 研究員 (50775963)
白樫 正 近畿大学, 水産研究所, 准教授 (70565936)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 住血吸虫 / 中間宿主 / クロマグロ / フタエラフサゴカイ / スポロシスト |
研究実績の概要 |
クロマグロ住血吸虫(Cardicola orientalis)の中間宿主であるフタエラフサゴカイおよび非中間宿主のフサゴカイ類(ニッポンフサゴカイ、ヒャクメニッポンフサゴカイ)を最長で半年間の飼育に成功した。感染ゴカイから採集したC. orientalisのスポロシストを注射によってこれらゴカイの体腔内に移植した結果、フタエラフサゴカイ54個体のうち32個体、ニッポンフサゴカイ10個体のうち6個体、ヒャクメニッポンフサゴカイ5個体のうち1個体でスポロシストの増殖を確認した。移植したスポロシストはセルカリアのみを含むスポロシストであったが、増殖中のスポロシストは、セルカリアと小型のスポロシストを内包するスポロシストや小型のスポロシストのみを内包するスポロシスト(娘スポロシスト)であった。すなわち、増殖時にはセルカリア内包スポロシストがスポロシスト内包スポロシストに変態することが示された。産生されたスポロシスト数は種によってかなり異なった。すなわち、中間宿主のフタエラフサゴカイでは最大1000個程度のスポロシストが産生されたが、ニッポンフサゴカイでは最大でも77個、ヒャクメニッポンフサゴカイでは400個程度にとどまった。今年度に行った実験によって、中間宿主、非中間宿主に関わらずフサゴカイ類を用いた住血吸虫スポロシスト期の維持や発育・増殖の観察が可能となった。また、スポロシストは2週間程度で増殖開始が確認され、1週間に約0.1 mm成長することがわかり、本種の増殖について基礎的知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度に、クロマグロ養殖場やその周辺で、クロマグロ住血吸虫(Cardicola orientalis)の中間宿主であるフタエラフサゴカイをできる限り除去したところ、クロマグロにおける住血吸虫感染率を低下させることができた。この成果は逆に、自然感染した中間宿主ゴカイに依存した実験系を維持することが困難になる可能性も持っていた。そのため、中間宿主ゴカイのin vivo培養系を確立し、住血吸虫の幼虫を安定的に供給するシステムを構築する必要があった。中間宿主のフタエラフサゴカイおよび非中間宿主のニッポンフサゴカイとヒャクメニッポンフサゴカイはほぼ人工飼育が可能となった。今年度は、自然感染ゴカイから得たスポロシストを注射することによって、中間宿主、非中間宿主を問わず、無感染ゴカイ体内でスポロシストを増殖させることに成功した。このことによって、実験感染系でスポロシスト期の維持や発育・増殖の観察が可能となった。本種の増殖について基礎的知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続きフィールド調査を実施し、ゴカイの生息場所や密度、住血吸虫感染率の推移等を調べ、養殖場からの効率的な除去法を策定する。 前年度に開発した中間宿主ゴカイの人為感染系を用いて、ゴカイ体内におけるスポロシストの増殖能力、増殖の季節性、セルカリアの放出などの知見を得て、クロマグロ養殖場における住血吸虫Caridicola orientalisの感染環の詳細を明らかにする。また、クロマグロの鰓から得たミラシジウムを飼育ゴカイに暴露して、ミラシジウムの行動、寿命、侵入機序、ゴカイ内の増殖過程を観察する。 駆虫に頼らない対策の確立には、中間宿主に関する多角的な研究が必要である。上記の実験を踏まえて、住血吸虫のふ化幼生ミラシジウムの中間宿主への感染実験や感染した中間宿主を飼育の飼育を通して、中間宿主への感染様式や中間宿主内のスポロシストの生物学的・生態学的特性を把握する。これらを総合して、より有効で効率的な中間宿主対策を提案していきたい。
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