研究課題/領域番号 |
17H03866
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
足立 伸次 北海道大学, 水産科学研究院, 教授 (40231930)
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研究分担者 |
井尻 成保 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (90425421)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | チョウザメ / 性分化 / 卵成熟 / 排卵 / 性統御 |
研究実績の概要 |
1)性分化:チョウザメの形態的未分化生殖腺においてfoxl2、cyp19a1a、hsd17b1遺伝子の発現を指標に将来の卵巣と精巣を判別可能で、将来卵巣特異的あるいは優勢的に発現する遺伝子は多数得ているが、性特異的DNA配列の発見には至っていない。本年度は、将来雄で優勢的に発現しているコンティグのうち既知の性分化関連遺伝子あるいはその候補と相同性がみられたもの、合計37個のコンティグを選抜することができた。 2)卵成熟および排卵:飼育下のチョウザメは自発的に産卵しないため、摘出した卵巣片を培養し、卵成熟および排卵能を確認した後、ホルモン注射を行なうことで卵を得ている。しかし、これには数日の培養が必要で、さらなる簡便法が求められる。本年度は、アムールチョウザメの排卵能獲得前の卵濾胞において、排卵能関連遺伝子の発現動態を調べた。その結果、platやmmp9により、濾胞細胞層に亀裂が生じ、排卵が途中まで進行したものの、ptgs2のmRNA量が不十分だったため、排卵に至らなかったと考えられた。また、今回mRNA量の増加がみられなかったptgs2を含む7遺伝子は排卵能獲得に関与し、排卵誘導適期を判断する指標として利用できることが推察された。さらに本年度は、異種細胞系を利用したアムールチョウザメ組換え濾胞刺激ホルモン(FSH)の作製を試みた。その結果、アムールチョウザメの組換えFSH発現細胞の作製に成功した。 3)全雌生産:チョウザメはZZ/ZW型性決定をすることが示唆されており、本研究では、数種のチョウザメで遺伝的雌(ZW)の雄化処理(偽雄つくり)はすでに行なっている。本年度は、偽雄候補個体3尾を用いて授精することができ、超雌候補およびそれらを雄性ホルモン処理した超雌偽雄候補の作出ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)性分化:本年度は、将来精巣特異的あるいは優勢的に発現する多くのコンティグを選抜することができた。これら遺伝子の暫定配列を元にアムールチョウザメのゲノムを用いてPCRを行なったが、現在のところ性連鎖DNAマーカーは同定できていない。また、これら遺伝子には複数の変異を含む多数のタイプが存在するものも多くみられた。加えて、最近ブリで性決定遺伝子として報告されたhsd17b1(ステロイド合成酵素の一種)の雌雄生殖腺からの再クローニングを行ない、性特異的な変異の有無を探索し、それらも合わせて性判別DNAマーカーとして利用できるものがないか探索している。 2)卵成熟および排卵:本年度は、アムールチョウザメの排卵能獲得前の卵濾胞において、排卵誘導適期を判断する指標として利用できるいくつかの遺伝子を得ることができた。また、近く排卵能獲得後の卵濾胞サンプルも得られる目処が立っている。さらに本年度は、アムールチョウザメの組換えFSH発現細胞の作製に成功したため、組換えFSHの大量生産と精製を行なっている。 3)全雌生産:本年度は、偽雄候補個体3尾を用いて授精することができ、超雌候補およびそれらを雄性ホルモン処理した超雌偽雄候補の作出ができたため、これら稚魚の育成を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
1)性分化:これまでの解析結果から、チョウザメにはアフリカツメガエルのdmw(dmrt1パラログ)のように配列が異なる性決定遺伝子は存在しない可能性が高い。そこで、性特異的な変異、特に1塩基置換(SNP)に着目して解析を進める。また、鳥類で示唆されているように、Z染色体上の遺伝子(dmrt1)の量(雄ZZは雌ZWの2倍)で性決定する可能性も残されている。従って、これまで得られた多くの性分化関連遺伝子について、性特異的な変異の有無を調べ、それらの中から性判別DNAマーカーとして利用できるものがないか引き続き探索する。 2)卵成熟および排卵:本年度は、アムールチョウザメの排卵能獲得前の卵濾胞において、排卵誘導適期を判断する指標として利用できるいくつかの遺伝子を得ることができため、今後はアムールチョウザメの排卵能獲得後および排卵前過熟に発現消長する遺伝子を探索する。さらに本年度は、アムールチョウザメの組換えFSH発現細胞の作製に成功した。また、すでにアムールチョウザメ組換え黄体形成ホルモン(LH)発現細胞の作製および組換えLHの精製に成功している。今後は組換えFSHの精製を行なうとともに、両ホルモンを用いて、卵成熟・排卵に及ぼす影響をin vivoとin vitroで解析する。 3)全雌生産:本年度は、超雌候補およびそれらを雄性ホルモン処理した超雌偽雄候補の作出ができたため、これら稚魚の育成を行ない、可能ならば性比確認を行なう。また、引き続き、新たな超雌偽雄候補の作出を行なう。
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