研究課題/領域番号 |
17H03867
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鈴木 徹 東北大学, 農学研究科, 教授 (70344330)
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研究分担者 |
酒井 義文 東北大学, 農学研究科, 准教授 (10277361)
田川 正朋 京都大学, 農学研究科, 准教授 (20226947)
横井 勇人 東北大学, 農学研究科, 助教 (40569729)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水産増養殖 / 異体類 / 変態 / 発生 / 体色異常 / 骨異常 |
研究実績の概要 |
私達は,これまで異体類の発生と内分泌調節について検討し,変態に伴う眼球移動や左右非対称な体色形成、骨形成はレチノイン酸(活性型ビタミンA, RA),甲状腺ホルモン,コルチゾル等のシグナルにより制御され,種苗の形態異常(眼位や体色異常,骨異常)は,これらシグナル回路の攪乱によって発生することを示唆している。本研究では,飼育技術と育種の両面から健苗育成に貢献することを目的として、従来の研究を発展し,変態を調節するシグナル回路を解明した上で,種苗で頻発する無眼側黒化の発生原因となるシグナル回路の乱れを究明し、さらに無眼側黒化のリスク遺伝子を特定することをめざす。 初年度は、ヒラメ・カレイ類の種苗生産で最も多発する形態異常である無眼側皮膚の着色を取り上げ、その発生機序を解析した。着色はプラスチック底で飼育すると全個体で発生するが、砂底飼育により完全に抑制されることを利用し、両飼育条件下で色素胞とその元となる色素芽細胞の出現状況を比較した。その結果、着色が背鰭基部(いわゆる縁側部分)の筋肉内の結合組織で色素胞が出現し、それらが皮膚に拡散することで着色が始まることが示唆された。また、砂底飼育の個体でのみ、この部分の結合組織にSox10(色素幹細胞のマーカー)陽性の細胞が出現することを発見した。これらの結果は、縁側部分に色素幹細胞に分化しうる細胞が常在し、水槽飼育の何らかの要因に応答して色素胞に分化し、皮膚の着色を起こす可能性を示唆している。 変態期仔魚をレチノイン酸に暴露すると、脊椎骨融合と無眼側の着色を誘起することを見いだしている。その機序を解析するために、レチノイン酸により発現が誘起・抑制される遺伝子を、次世代シーケンサーを使ったトランスクリプトーム解析でスクリーニングした。その結果、レチノイン酸の分解酵素を含め、数10種類の遺伝子が発現誘導されることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒラメの無眼側皮膚の着色現象の発生学的な機序はこれまで全く不明であったが、今回の研究により着色反応が皮膚で直接起こっているのではなく、かなり深部の結合組織で始まっていることが明らかとなった。この発見は種苗生産で問題となっているヒラメの着色異常の原因を解明する上での足がかりとなるものと期待される。最近、ほ乳類でも色素細胞がシュワン細胞からも派生するなど、色素細胞系譜の柔軟性が明らかにされつつある。ヒラメの着色現象は、成体における色素細胞の新生や再生現象を解析する上でも興味深い研究材料となるものと考えられる。 トランスクリプトーム解析では、変態期にRAに正と負に応答する遺伝子が複数発見された。以上のように、予定通り、あるいはそれ以上の成果が得られているものと自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、縁側の結合組織に見つけられた色素幹細胞が、実際に皮膚にまで移動して色素胞に分化するかを試験する。そのために、生体蛍光色素であるDiOで縁側結合組織の細胞をラベルし、蛍光により経時的に細胞の挙動と遊走を観察する。種苗生産における着色個体の発生を抑制する技術開発に結びつけることを目的として、水槽飼育のどの要因が着色現象、すなわち色素芽細胞の分化を誘導するのかという点について、解析に着手する。 トランスクリプトーム解析を使って、レチノイン酸の抑制に伴って発現が変化する遺伝子、またコルチゾルの過剰と抑制に反応する遺伝子もスクリーニングする計画である。得られたデータを解析することにより、変態を調節するシグナル回路を明らかにする。
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