研究課題/領域番号 |
17H03868
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
兵藤 晋 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (40222244)
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研究分担者 |
工樂 樹洋 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, ユニットリーダー (40391940)
立原 一憲 琉球大学, 理学部, 教授 (70264471)
佐藤 圭一 一般財団法人沖縄美ら島財団(総合研究センター), 総合研究センター 動物研究室, 上席研究員 (80721745)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | オオメジロザメ / 広塩性 / 軟骨魚類 |
研究実績の概要 |
本研究では、飼育実験と比較RNAseqをとおしてオオメジロザメの広塩性のメカニズムを解明すると同時に、フィールド調査によりメカニズムの検証ならびに河川におけるオオメジロザメの生態を明らかにすることを目的としている。 昨年度に引き続き、淡水馴致実験個体の腎臓の比較RNAseqの結果を基に発現量に大きな変化を示す遺伝子の解析を行った。本年度は淡水移行により発現が減少する遺伝子を調べ、水チャネル(AQP3)やホウ酸輸送体を見出した。アフリカツメガエル卵を用いた実験により、それぞれが水とホウ酸を輸送する活性があること、定量PCRにより発現量の有意な低下が確認されたこと、いずれも第4ループを形成する遠位細尿管後部(LDT)で発現することなどが証明された。LDTは淡水移行によってNaCl再吸収に関わる輸送体群の発現が上昇する部位でもあることから、生息環境の変化に応答して機能を切り替え、オオメジロザメの広塩性にとって重要な役割を果たす部位であることがわかった。 サメ類の遺伝子解析において深刻な問題は、ゲノム情報や遺伝子推定がなされていないことであった。そこで、サメ複数種の全ゲノム解析情報の取得・遺伝子推定を完遂し、Nature姉妹紙に公表した。その過程で、恒常性の維持に関わるホルモンとその受容体のサメオーソログを同定した。 西表島浦内川でのフィールド調査も4月、6月、8月、10月、3月の5回行った。6月の刺し網調査では生後間もない新規加入個体が8尾捕獲され、2014年から5年間連続して隔年出産仮説と一致した結果となった。全調査において、河川の約13地点で環境DNA用の採水を行い、オオメジロザメDNAに特異的な検出系を確立して解析したところ、これまで捕獲されたことがない秋季や冬季にも、浦内川においてオオメジロザメの生息を示唆する情報が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
広塩性に関わる候補遺伝子として特定した水チャネル(AQP3)とホウ酸輸送体の機能解析、淡水移行による発現量の有意な低下、遠位細尿管後部(LDT)での発現を見出した。29年度のNaCl再吸収活動の上昇と合わせ、LDTがオオメジロザメに広塩性をもたらす重要な部位であることを証明し、広塩性のメカニズム解明に向けて順調に進捗している。NaCl再吸収活動については原著論文の投稿をすませ、今年中には公表予定である。 飼育実験に適したトラザメを含む3種のサメ類の全ゲノム解析情報・遺伝子推定を完遂し、Nature姉妹紙に公表し、プレスリリースも行った。恒常性の維持に関わるホルモンとその受容体のサメオーソログ同定から、これらの調節系が有顎脊椎動物の祖先の時点で確立していたことを示唆し、コルチコイドやプロラクチンなどの関連情報を原著論文として公表した。さらに、オオメジロザメのオミクス解析に備えてトランスクリプトーム・ゲノム・エピゲノムデータ取得方法の高度化と低コスト化も実現した。 30年度に浦内川で採集されたオオメジロザメは、平均全長790㎜、平均体重3551gであり、いずれも生後間もない0歳と推定された。この結果は我々が考える隔年繁殖仮説を支持するものであり、オーストラリアの研究者と共同でオオメジロザメの集団遺伝解析を開始するという、新たな展開をもたらすものとなった。環境DNA解析からは、捕獲調査と一致して夏季に検出されただけでなく、秋季や冬季にも河川の上流でオオメジロザメDNAが検出されたことから、環境DNA手法の有用性と、水温や塩分が低下した河川環境でもオオメジロザメが生息していることを示唆する結果が得られた。 沖縄本島で飼育実験のためのオオメジロザメの捕獲を試みたものの、天候不順もあり、30年度も不成功に終わった。2019年度は季節などを考慮して若齢個体の採集を試み淡水化実験を行う。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画に従い、下記の通り進める。 広塩性メカニズムの解析:引き続き比較RNAseqを基礎に広塩性に関わる遺伝子の探索を進める。これまでの研究から遠位細尿管後部(LDT)が広塩性の鍵を握ることがわかってきたことから、LDTの調節に関わるホルモンに注目したい。LDTを特異的に回収する手法の確立を進め、特定のネフロン分節のRNAseq解析を試み、LDTに特異的に発現する遺伝子の同定を進める。 フィールド調査:刺し網調査を行う6月に加え、冬季に浦内川の環境DNA調査を行う。隔年繁殖であれば今年度は0歳魚の新規加入はないと考えられる。冬季には、河口から上流までのできるだけ広範囲で採水を行い、冬季にもオオメジロザメが河川、特に淡水域に生息するのかどうかを確認する。 飼育実験:オオメジロザメが淡水中にどの程度の期間適応できるのか、長期飼育実験により調べる。今年度は捕獲時期を検討するとともに、捕獲エリアを拡げて成功させる。捕獲したサメは水族館の飼育実験水槽に運び、長期の淡水飼育を試みサンプリングする。
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