研究課題/領域番号 |
17H03869
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木下 滋晴 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (40401179)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 老化 / 寿命 / 成長 / 魚類 / 比較トランスクリプトーム / 比較ゲノム |
研究実績の概要 |
ほ乳類では加齢に伴うGDF11の増大が加齢に伴う筋委縮を引き起こす可能性が示されている。ほ乳類と対照的に終生的に筋成長が続く魚類でのGDF11シグナルを検討し、ノックダウン実験から魚類でもGDF11は筋成長を抑制する働きを持つが、加齢に伴うGDF11の増加は起きていないことが示された。現在、ノックアウトの作成を試みている。さらに、RNA-seqによる網羅的な遺伝子発現解析では、ゼブラフィッシュの加齢に伴うATF3の発現上昇が認められ、ラットとは逆の変化を示した。ATF3の発現上昇はmTORのシグナルの阻害で起きることが知られるが、mTORシグナルの抑制で起きることが知られるHSP遺伝子群の発現上昇とribosomal protein遺伝子群の発現低下が魚類では認められる一方、ラットではこうした変化はみられなかった。mTORシグナルは成長と老化を制御するマスター因子として、線虫からヒトまで保存されており、ほ乳類では過剰なmTORシグナルの活性化が加齢を促進させると考えられているが、魚類ではmTORの活性抑制が抗老化に寄与していることが考えられた。また、成長ホルモン(GH)の過剰発現トランスジェニック魚を作成し、その老化特性の変化を調べた。GHトランスジェニック魚ではmTORシグナルの活性化が認められ成長が強く促進されたが、一方で、オートファジーの抑制による異常タンパク質の蓄積、アポトーシスの増大、活性酸素の増大、全身的な幹細胞数の低下、造血幹細胞の分化異常等が観察され、加齢が強く促進されていた。 その他、長命魚の天然個体サンプリングを行い、本年度はアコウダイを釣りにより捕獲した。耳石による年齢査定では24歳齢とされた。RNA-seqを行い、テロメア関連遺伝子やGDF11など、老化関連遺伝子の情報を取得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通り、哺乳類とゼブラフィッシュ老齢個体のRNA-seqのデータの比較解析を行い、両者の老化特性の違いにmTORシグナルが寄与する可能性を提示することができた。また、本年度は長命種のサンプリングとRNA-seqのライブラリー作成までを予定していたが、アコウダイのサンプリングとライブラリー作成、シーケンシングまでを行い、複数の寿命関連遺伝子のシーケンス及び発現情報を取得することができた。また、GDF11の魚類での機能について初めて検討し、ノックアウト作成には至らなかったが、ノックダウン実験からその機能について生物学的データを取得することができた。またRNA-seqのmTORシグナルがキーなっている可能性を明らかにすることができた。また、寿命や老化特性の改変モデル魚の作成については、成長ホルモンを過剰発現するトランスジェニック系統を確立した。本年度中は系統の確立までを予定していたが、トランスジェニック魚の解析から、オートファジーの抑制が、強く老化の促進することが明らかになるなど、予定以上のデータを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
GHトランスジェニック魚については、オートファジーの低下による老化特性の変化に関して、さらに生物学的データを蓄積する。また、RNA-seqを行い、加齢に伴う遺伝子発現変化との比較解析を行う。IGF-1のトランスジェニック魚も作成し、同様の解析を行う。また、今年度に継続して、CRISPR/Casを用いたGDF11のノックアウト魚の作成を行う。 ゼブラフィッシュのRNA-seqのデータ解析を継続し、ラット等哺乳類との比較解析を行う。また、長命魚のサンプリングと共に、短命魚としてアユのサンプリングを行い、シーケンスデータの取得を行う。 長命種については、老齢個体のサンプリングは困難であることが予想され、既に得られている個体のゲノムシーケンシングを行う。また、既存のデータベースを利用して比較ゲノム解析を行い、短命魚種や長命種でpositive selectionやnegative selectionを受けている遺伝子座を抽出し、寿命との関連を検討する。
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