研究課題/領域番号 |
17H03870
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
加藤 明 東京工業大学, バイオ研究基盤支援総合センター, 准教授 (40311336)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 魚類生理学 / イオントランスポーター / ホルモン受容体 / 輸送上皮細胞 / 淡水・海水適応 |
研究実績の概要 |
真骨魚のエラ、腸、腎臓に発現する様々な膜輸送体(トランスポーター、チャネル、ポンプ)を同定して機能を明らかにした結果、淡水・海水順応における水電解質代謝を分子レベルで説明できるようになりつつある。エラ、腸、腎臓の機能は様々なホルモンにより制御されるが、プロラクチン・コルチゾールを始め淡水・海水順応を制御するとされるホルモンが膜輸送体を制御する機序は明らかでない。我々はこれまでに、アフリカツメガエル卵母細胞に発現させた膜輸送体を電気生理学的に測定する優れたシステムの構築に成功し、年間を通して安定的に、様々な輸送体活性とその制御を解析する体制を構築した。膜電位を固定した状態で膜電流を測定しながら同時に細胞内イオン活性を測定するシステムを微小Mg2+電極、Na+電極、H+電極、K+電極、Cl-電極などと組み合わせることで、起電性イオン輸送体の活性測定をより高感度に行うことが可能となる。得られた装置の稼働率を上げてホルモン効果機としての膜輸送体の機能を効率よく解析し、魚類の淡水・海水順応を担う受容体と輸送体の分子相関をin vitroで解析する国際研究ハブを本申請により構築することを目指す。特に海水魚腎臓によるMg2+、SO42-、ホウ酸排出を担うと考えられている2Na+/Mg2+交換輸送体、Cl-/SO42-交換輸送体、2HCO3-/SO42-交換輸送体、ホウ酸輸送体などの活性を促進もしくは抑制するシグナルを明らかにする。また淡水エラによるNaCl吸収、腎臓によるNaCl再吸収を担うNa+/H+(NH4+)交換輸送体、Na+/Cl-共輸送体の制御や、新たに発見したK+/H+交換輸送体の活性を制御するシグナルの解析も推進する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腎尿細管に発現するホルモン受容体の同定:ゼブラフィッシュ鰓・腎臓やトラフグ腎臓に発現するホルモン受容体を特定し、Xenopus oocyteにおける発現ベクターを作成した。Xenopus oocyteにおける膜輸送体とホルモン受容体の共発現、及び、ホルモン受容体のアミノ酸配列から期待される細胞内情報伝達系の刺激試薬などを用いて膜輸送体の活性に対する促進・抑制効果を評価した。Slc9ファミリーやSlc12ファミリーに属する輸送体の活性を、イオン選択性電極を用いて解析したところ、受容体に加えてscaffold protein等の因子の共発現が活性制御評価に必要なことなどが明らかとなり、継続して解析を進める。AQPファミリーによるホウ酸輸送活性の解析:トラフグとヒトのAQPファミリーの網羅的な活性解析から、AQP10の輸送基質特異性がトラフグとヒトとで大きく異なることが明らかとなった。一次構造の比較及び点変異体の活性解析から、トラフグAQP10は進化の過程で新たに基質選択性フィルターを獲得した可能性が高いことを見出した。海水魚集合管における水再吸収機構:ゲノム支援によるRNA-Seq解析支援により、トラフグ集合管に発現する膜輸送体とホルモン受容体の網羅的解析に成功し、海水魚集合管における水電解質の再吸収機構の新たなモデルを構築した。トラフグ集合管に高発現する水チャネル、イオンチャネルに対するポリクローナル抗体を作製して免疫組織化学的手法により解析したところ、トラフグ集合管のアピカル膜に高発現するチャネルを同定した。これらのチャネルの一部は淡水順応時に活性が負に制御される可能性が高く、その制御機構の解明を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
海水魚集合管を介した水再吸収機構の解析: 海水魚集合管はNaCl及び水を活発に再吸収し、尿量を低下させ、結果として尿中の2価イオン(Mg2+、 SO42-)を濃縮させる。トラフグ集合管の発現解析により、海水魚集合管に発現する水チャネル(Aqp)、イオン輸送体、イオンチャネル、ホルモン受容体を同定した。それらの中にはこれまで注目されてこなかった重要な因子が含まれ、海水魚集合管がホルモン等に応答してNa+、 Cl、 水の再吸収を促進して尿中2価イオンを濃縮する新たな説を得ることができた。その説を証明するため、前年度に引き続き免疫組織化学的手法による組織局在の同定を行う。また同時にXenopus oocyteに発現させた輸送体を薬剤で刺激し、活性制御機構の探索を行う。淡水魚の水排出を担う腎NaCl共輸送体(Ncc)の制御機構の解明: NaCl共輸送体(Ncc)は淡水魚腎臓に高発現し、尿の希釈や水の排出に寄与していると考えられている。Xenopus oocyte に発現させたNcc の活性解析を継続して行い、活性制御機構を明らかにする。また同時に比較ゲノム解析を行い、Nccが属するSlc12遺伝子ファミリーの淡水魚、海水魚、陸上動物における進化の違いを明らかにする。エラ塩類細胞や腎臓に発現するイオン輸送体の制御機構の解析:淡水魚エラ塩類細胞は淡水から濃度勾配に逆らってNa+を吸収する。海水魚エラ塩類細胞はCl-を濃度勾配に逆らって分泌する。海水魚近位尿細管は、Mg2+やSO42-、ホウ酸を分泌する。これらの分子機構やその制御機構を明らかにするため、淡水魚エラ塩類細胞に発現するNa+輸送体、海水魚エラ塩類細胞に発現するCl-輸送体、海水魚近位尿細管に発現する2価イオン輸送体やホウ酸輸送体等をXenopus oocyte に発現させ、新たな活性を探索や活性制御メカニズムの解析を行う。
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