研究課題/領域番号 |
17H03871
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
遠藤 英明 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (50242326)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | バイオセンサ / 魚類 / モニタリング / 通信 / 双方向 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,双方向通信技術を用いて,遊泳している魚の生理状態を目視で容易に判別できるバイオセンサシステムを創出することである.今年度は,バイオセンサのための魚体への新たな留置部位の検討,新しい電源供給システムの試作,および魚体に装着した双方向通信システム作動についての検証を行った. これまでセンサの魚体への留置部位として,魚の眼球外膜内部に存在する細胞間質液(EISF)を用いてきた.しかし,多くの海水魚類ではEISFの存在が確認できなかったため,これに代わるセンサの新たな留置部位の探索が必要であった. そこで,魚の腹腔中の腹水に着目した.まず,バイオセンサをEISFが存在する淡水魚類(ナイルティラピア)の眼球外膜内及び腹腔内にセンサを留置し,それらの応答値を同時に測定することでストレス応答の相関関係を調べた.次に,EISFが存在しない海水魚類(メジナ,イシガキダイ)の腹腔内にセンサを留置し,ストレッサーを負荷してそれらの応答を測定した. 一方,本バイオセンサは動力源として電池を用いているため,長時間のモニタリングでは電池を交換する必要があった.そこで今年度は,生物燃料電池とグルコースバイオセンサを融合させた新しい自家発電型バイオセンサを試作した.まず,電極のアノード部にメディエーターとなるニュートラルレッドとグルコースオキシダーゼ(GOx)を固定化し,カソード部にはPAMAMデンドリマーに内包された白金ナノ粒子を固定化することによりセンサシステムを製作した.そしてバイオセンサをリン酸緩衝液(PB)中に浸漬し,これにグルコース溶液を添加することでその発電特性を評価した. さらに,双方向通信システムを魚体に装着し,実際に魚を遊泳させた状態でPC上でLED点灯色の校正を行うことで,魚のストレス応答の大小に応じた点灯色の変化を検証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず,ティラピアの腹水中のグルコース濃度を測定したところ,49.0 mg/dLの値が得られ,その存在が確認された.腹腔内と眼球外膜内での同時測定では,ストレッサーの負荷により,まず腹腔内のセンサの応答値が大きく上昇し,続いて眼球外膜内の値も上昇した.ストレッサーを除去した後は,腹腔の応答値は速やかに,眼球外膜の値は緩やかに減少した.また,海水魚類のストレス応答測定では,センサの応答値はストレッサーの負荷中において最大となり,血中グルコースの値は少し遅れて最大となった.これにより,腹腔内にセンサを留置することにより魚のストレス応答の経時的変動測定の可能性が示唆された. 次に,自家発電型バイオセンサにおける,PAMAMデンドリマーと白金イオンの配位反応の進行状態を確認したところ,260 nm前後の吸収スペクトルにおいて吸光度の上昇が認められた.これによりPAMAMデンドリマーに内包された白金ナノ粒子の効果により,安定した電子授受能力を確保できた.そして, グルコース溶液の添加によりセンサシステムの発電が認められたため,これにより溶液中のグルコースを利用して発電を促しながら,グルコース濃度の測定が可能であることが示唆された. 一方,実際に双方向通信回路を魚体に装着し,ストレス応答モニタリングを試みたところ,PC上でLED点灯色の校正が可能であることが確認でき,次年度の研究計画に十分対応できることがわかった. さらに,本研究成果の一部を令和元年度日本水産学会秋季大会(福井県立大学,2019年9月)において当研究室の大学院生が発表したところ,ポスターコンペティション優秀賞(学生部門)を受賞することができた.[発表題目:自家発電型グルコースバイオセンサの試作に関する基礎的研究] 以上の理由から,本研究の進捗状況は計画通り順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今年度は,腹腔内に留置したセンサにより魚のストレス応答の経時的変動を測定することが可能であることが示唆されたが,腹腔内のセンサの応答は,眼球外膜の応答とその経時変化や応答強度においてやや異なる傾向を示すことがあった.また,血中のストレス指標物質の変動とも完全には一致しなかった.この点については今後,さらなる検討が必要であると考えている. また,自家発電型バイオセンサシステムについては,センサの実装化に向けて,高導電性を持つカーボンナノチューブ(CNT)及び薄型の炭素電極基材を用いることにより,従来よりも出力電流値が高く,かつ小型化したバイオセンサの試作を行う.具体的には,炭素電極基材を導入したセンサのアノード(酸化極)にGOx及びCNTを,カソード(還元極)に白金ナノ粒子を内包したPAMAMデンドリマーを固定化することにより,バイオセンサを製作する.このセンサをPBまたはナイルティラピアから採取した生体試料中に浸漬し,ここにグルコース標準溶液を添加することにより,グルコース濃度とセンサの出力電流値との関係を調べる.また,センサの電池としての特性評価を行うため,PB中のグルコース濃度を一定濃度に設定し,その発電効果を調べる. 一方,双方向通信システムにおいては,複数の魚にバイオセンサ及び双方向通信基板を各々装着し,電波通信によりLEDの点灯色を校正し,魚体にストレスを負荷しながら,その応答とLED点灯色の変化との相関を検証する.また,本システムを2個体の魚に各々装着し,同じ水槽内で対面させることにより,各個体のストレス応答を同時にモニタリングしながら,LEDの点灯/消灯による測定対象魚の識別を試みると共に,ストレス応答の大きさに応じたLED点灯色の変化を検証することにより,本システムの特性評価を行う.
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