研究課題/領域番号 |
17H03888
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
渡辺 晋生 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (10335151)
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研究分担者 |
武藤 由子 岩手大学, 農学部, 准教授 (30422512)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 凍土 / 寒冷地 / 水分・熱移動 / 窒素動態 / 有機物分解 / 硝化 |
研究実績の概要 |
令和二年度は、本研究課題の主テーマである、凍結にともなう凍土下の硝酸イオンの挙動を有機物分解過程や凍土中での溶質濃縮過程も含めて明らかにすることを目的とした。そこで、様々な硝酸イオン濃度に調整した黒ぼく土の一次元カラム凍結実験を行い、その際の熱・水分・硝酸移動を観測するとともに、凝固点降下や溶質フラックスについて解析した。その結果、土中に含まれる硝酸イオンは土の凝固点を低下し、潜熱が強制的に排出されるような端面条件においては凍土の熱伝導率低下分凍結の進行を遅らせること、未凍土から凍土への硝酸イオンの移動のほぼ全ては移流により、それ故、初期イオン濃度が高いほど凍土への集積量が増大すること、凍土中では硝酸イオンは一旦土中氷に取り込まれて凍結するものの、時間の経過と共に徐々にそのほぼ全てが不凍水中に吐き出されることなどを明らかにした。また、有機物を含む土中の硝酸イオンの変化を予測するため、油粕を混入した黒ぼく土の浸潤実験を行い、土中や排液中の窒素各態の挙動を測定した。そして、実験結果を予測できるモデルを構築し、様々な条件に対して計算を試行した。その結果、1 cm/d以下の降水強度では水分移動の有無は有機物分解や硝化に影響を及ぼさないこと、土層の深さや通気正に有機物の分解速度が依存するため底の浅い容器で測定したバッチ試験の結果を実際の土層に適用するさいには注意が必要であること、有機物分解に対し硝化が生じるタイミングが遅れること、有機物分解を伴う場合硝化速度をATP量から推定することが難しいことなどを明らかにした。これらの知見に基づき、凍土環境下の物質循環機構の整理を進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍による学生の入構制限があり、十分な実験回数を確保する点に苦労したが、これまで要素実験を繰り返すことで準備を進めてきた凍結過程と有機物分解過程の測定を集約した実験を行うことができた。これにより、凍結にともなう硝酸イオンの移動・再分布過程や凍土下の窒素動態についての知見を得ることができ、その解析も順調に進めることができた。現在、論文執筆に向けて準備を進めている。特に、凍土中の不凍水量の測定に基づき氷中の不凍水中の溶質量の定量に成功したことで、実験結果の解釈を進めることができた。有機物分解過程についても、計画を練ることで限られた時間の中でバッチ試験とカラム実験を十分ではないものの必要な回数行うことができた。さらに、数値解析モデルの構築・修正が当初の見込みより順調に行えたため、結果として予定通りに検討を進めることができた。令和2年度は、これらの成果を2件の論文、および12数件の学会発表として公開した。研究に関する打ち合わせや学会がオンラインであったため、会合は容易ではあったものの一過性になってしまい、真に身の入った討論や継続的な検討をすることが難しかった。こうしたある意味悪い影響は論文数や学会発表数にも現れた。浸潤にともなう熱の発生と伝播について、非平衡な土中での氷の成長を表現する浸潤モデル、硝酸移動と土中の酸化還元など、予定では投稿済みであるべき論文の執筆ができておらず、これは次年度の課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
凍結にともなう硝酸イオンの移動・再分布と凍土中での不凍水への濃縮について、不飽和浸透過程にある土中の有機物分解と無機化について、乾いた凍土への水の浸潤過程について、浸潤にともなう湿潤熱の発生と温度分布について、水や硝酸イオンの流下にともなう還元分布の変化についてなど、これまでに得られた成果の論文化を急ぐ。また、本課題で構築してきた凍結・窒素動態モデルを用いて、未解析な実験結果や野外観測データの解析を進める。凍土下での窒素動態については実験を継続し、凍結にともなう水分・溶質分布の形成メカニズムの検討を進めるとともに、蒸発現象も考慮して地表への栄養塩の集積過程の解明を目指す。この際、温度勾配と水分勾配の方向が様々に異なる土の凍結実験を行い、その際の水分移動やポテンシャル分布を測定することで、これまで得られてきた知見やモデルの一般化を図る。また、野外観測においても微生物活性(ATP)や土の還元(Eh)に着目し、ATPやEh、あるいは地温や含水率で定式化した有機物分解や硝化の速度定数による、凍結・窒素移動連結モデルの適用を試みる。新型コロナウィルスにより引き続き研究アクティビティを維持することが難しい状況が想定されるので、できることを適時行い、必要に応じて柔軟に対応できる体制作り継続することで本課題の推進に努め、最終年として成果をまとめる。
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