肥育に伴い、肥育牛の基礎代謝は亢進する。これは、エネルギー浪費が助長され、エネルギー利用効率が低下することに起因する。寒冷環境や体脂肪増加時には、褐色脂肪細胞や脂肪組織に散在する褐色脂肪細胞様細胞が有する脱共役タンパク質(UCP)1により非ふるえ熱産生が生じる。一方、筋肉も寒冷時の非ふるえ熱産生に大きく貢献している。研究代表者らは、肥育牛骨格筋にUCP1発現細胞が存在することを見出した。本課題では、肥育時の骨格筋における非ふるえ熱産生調節機構を解明することを目的としている。 肥育期間の違い、ならびに、ビタミンC補給が肥育牛骨格筋におけるUCP1発現に及ぼす影響を検討したところ、頸部最長筋でのUCP1発現は、26か月齢で屠畜した肥育牛よりも30か月齢で屠畜した肥育牛の方が高かった。一方、皮下脂肪におけるUCP1発現は、26か月齢の肥育牛の方が低いことが明らかになった。この結果は、筋肉組織と脂肪組織におけるUCP1発現調節は異なっていることが示唆する。マウスやヒトの褐色脂肪細胞におけるAキナーゼ経路の活性化はUCP1発現増加を引き起こす。また、褐色/ベージュ脂肪細胞におけるUCP1発現調節因子の一つにTGF-β、activin、BMPのサブグループからなるTGF-βファミリーがある。屠畜場で得た肥育牛の頸部最長筋から筋衛星細胞を調製し、筋分化後にホルスコリン(Aキナーゼ経路の活性化剤)処理を行ってもUCP1発現は変化しないこと、TGF-β/activin経路の阻害剤であるA-83-01には筋分化促進機能ならびにUCP1発現増加機能があることが明らかになった。一方、BMP経路の阻害剤であるLDN-193189は筋分化関連分子の発現には影響を及ぼさなかったがUCP1発現を亢進した。このように、ウシ筋組織におけるUCP1発現は、様々な因子によって調節されていることが明らかになった。
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