研究実績の概要 |
オリゴDNAは、胃酸や酵素による分解を受けることから、経口投与は難しいとされてきた。研究代表者は、乳酸菌オリゴDNAを腸管粘膜へ効率的に運搬する「DNAナノカプセル(DNA微粒子:DNanocap, オリゴDNAを包摂したカルシウム性ナノ粒子)」の開発に成功している(Mol Ther., 23:297, 2015)。2018年度は、プロバイオティック乳酸菌(LGG株)のゲノムDNAより発見されたCpGオリゴDNA(ID35, Cell Microbiol., 7:403, 2005)を包摂したDNanocap(ID35cap)を、健常マウスへ経口投与することで、その後化学物質(デキストラン硫酸ナトリウム, DSS)に誘発される実験的大腸炎(DSS腸炎)が、軽減されることを発見した。すなわち、健常な腸管粘膜上皮に送達された乳酸菌オリゴDNAが及ぼす極めて初期段階に展開される免疫制御機構を解明する必要性が生じた。また、2017年度までに気管支喘息モデルマウスに対する乳酸菌オリゴDNAの自由摂取試験の結果から、優れた抗アレルギー作用が見出されたことから、腸管内容物および糞便をサンプルとする16Sメタゲノム解析を行った。その結果、乳酸菌オリゴDNA自由摂取群の菌叢構造は、気管支喘息モデル群のそれと比較して、著しく異なっていることが示唆された。また、これら2群間では、いくつかの門に属する細菌の存在比率が有意に異なることが明らかになった。今後は、乳酸菌オリゴDNAの自由摂取による菌叢構造の変化と抗アレルギー効果の関連についてさらに解析する必要がある。オリゴDNAは、医薬分野において実用化(核酸医薬など)に最も近い中分子核酸化合物の一つとされている。本研究は、オリゴDNAの経口利用を目指す上で、これまでに得られた免疫系の制御機構解明に焦点を絞ったものである。
|