研究課題/領域番号 |
17H03908
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
辰巳 隆一 九州大学, 農学研究院, 准教授 (40250493)
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研究分担者 |
水野谷 航 九州大学, 農学研究院, 助教 (20404056)
古瀬 充宏 九州大学, 農学研究院, 教授 (30209176)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 筋線維型 / 遅筋型筋線維 / 筋幹細胞(衛星細胞) / Sema3A / 筋の初期成長 / アゴニスト / 食品機能性 / 食肉生産科学 |
研究実績の概要 |
動物の出生後の筋成長過程での筋線維型制御に筋幹細胞(衛星細胞)合成・分泌因子semaphorin 3A (Sema3A)が関与しているかを直接的に調べるため、衛星細胞特異的Sema3A-cKOマウスの表現型解析を行った。前年度までの結果に基づき、筋の初期成長期にあたる1週齢でタモキシフェンを腹腔に投与しSema3A発現をcKOした後、成熟期の15週齢まで飼育した。対照区のSema3A-loxPマウスにもタモキシフェンを同様に投与した。 両群から回収した後肢下腿部の筋(ヒフク筋、ヒラメ筋)を抗myosin重鎖アイソフォーム抗体で4重蛍光免疫染色し、筋線維型組成(遅筋型筋線維、速筋型(IIa, IIx, IIb型)筋線維の相対比)を測定した。タモキシフェン投与を開始した1週齢では、期待通り、いずれの筋においても両群間で筋線維型組成に有意な差は認められなかった。一方、15週齢でヒラメ筋(遅筋型筋線維が極めて優勢な筋)の筋線維型組成を比較したところ、Sema3A-cKO群で遅筋型筋線維の割合が劇的に低下し、速筋型(IIb型)筋線維が代替的に増加することが認められた。同筋肉組織のmyosin重鎖アイソフォームおよび筋線維型関連因子(myoglobin, porin, myogeninとMEF2D)のmRNA発現解析の結果は上記の結果を指示するものであった。以上の結果から、マウスの初期筋成長期において、衛星細胞が合成・分泌するSema3Aは遅筋型筋線維の形成を誘導する重要な因子であることが分かった。 また、新たに作出した「衛星細胞の高純度初代培養系」を用いて、リンゴポリフェノール(種々のポリフェノールの混合物)からSema3A細胞膜受容体(neuropilin2-plexinA3複合体)のアゴニスト活性を有すると考えられる単一成分1種を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で前述した通り、衛星細胞特異的Sema3A-cKOマウスを用いたin vitroおよびin vivo実験により、筋幹細胞(衛星細胞)が合成・分泌するSema3Aは遅筋型筋線維の形成誘導に関わる鍵因子であることが明確になった。また、筋損傷・再生時と同様に筋の初期成長期においても、Sema3A依存的なシグナリング軸にmyogeninとMEF2Dが関与していることも推測された。更には、このSema3Aリガンドを受容する細胞膜受容体(neuropilin2-plexinA3複合体)のアゴ二スト活性を有すると考えられる食品成分として、リンゴ幼果皮由来のポリフェノールから単一成分1種を見出した。従って、予定した実験計画の主要な項目は概ね良好に実施されたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
学術的にインパクトのある大きな成果としてまとめるため、前年度に引き続き更に研究データを蓄積することが必要と認識している。前述の通り、後肢下腿部の代表的な筋であるヒフク筋およびヒラメ筋(遅筋型筋線維が優勢な筋)において、筋幹細胞(衛星細胞)合成・分泌因子semaphorin 3A (Sema3A) 依存的シグナリング機構によって遅筋型筋線維の形成が誘導されることをほぼ実証することがきたので、この新奇分子機構を更にハイライトするための補強実験データを得るよう努める。また、食品機能学的成果をさらに発展させるため、アゴニスト活性を有する単一食品成分を更に検索する予定である。Sema3A-cKOマウスおよび野生型マウスを用いた給餌実験を行い、筋の初期成長期におけるSema3A依存的な遅筋型筋線維形成機構の食品機能学的制御に向けた基盤整備を行う予定である。
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