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2019 年度 実績報告書

細胞内寄生菌の宿主内増殖と共生の双方向転換機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 17H03914
研究機関山口大学

研究代表者

度会 雅久  山口大学, 共同獣医学部, 教授 (40312441)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2021-03-31
キーワード細胞内寄生菌 / 自然宿主 / 共生 / マクロファージ / 野兎病
研究実績の概要

病原細菌の多くは自然宿主内では病原性を発揮せず共生関係にあると考えられる。本研究はそのメカニズムを解析し、感受性宿主内における細胞内寄生菌の増殖と共生(休眠)の機構解明に応用することを目的としている。病原体の環境中での動態、特に自然宿主とその共生メカニズムは不明な点が多い。本研究では、細胞内寄生菌の代表として野兎病菌およびノビシダ菌を用い、終宿主感染モデルとしてのマクロファージと自然宿主モデルとしてのカイコ内の動態について比較解析を検討した。
マクロファージ内増殖およびカイコへの共生に必要な菌側因子を検索するために、トランスポゾンを用いたランダム挿入変異法により、細胞内増殖および共生しない変異株の作出を行った。マクロファージおよびカイコの中で維持されず、短期間に消失する変異株が複数得られた。マクロファージ内での増殖能が低下した変異株に注目し、変異部位の解析を遺伝学的手法により行った。その結果、soluble lytic transglycosylase (SLT) をコードする遺伝子が変異していることが明らかとなった。そこで、slt遺伝子を欠失したノビシダ菌を作製し、人由来マクロファージTHP-1細胞を用いて細胞毒性試験を行った。欠損株は親株に比べ、THP-1細胞への毒性が低下していた。また、欠損株は親株に比べ細胞内増殖能も低下していることが認められた。THP-1細胞内において、欠損株は感染の早期にファゴソームから脱出するが、オートファゴソームに取り込まれる。その後リソソームと融合し消化される。欠損株は親株に比べ、感染時にtumor necrosis factor-α、interleukin (IL)-6、 IL-1βなどのサイトカインの産生を誘導することが示された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

新たな節足動物モデルとしてカイコ(Bombyx mori)の有用性に着目し、野兎病菌の自然宿主モデルの解析を行っている。本年度はトランスポゾンを用いたランダム挿入変異法により、マクロファージ内増殖能が低下した変異株の作出を行い、原因遺伝子の同定とその機能解析を実施した。その結果、ノビシダ菌の感染時に認められる宿主の免疫抑制作用に本研究で見出されたSLTが関与することが示唆された。SLTは細胞質内でオートファジーによる消化を回避するのに重要な役割を担っているものと考えられる。今後これらの菌株の性状解析をさらに進めるとともにカイコへの共生について検討を行う。宿主への共生に関与する因子(共生因子)の機能解明がさらに進むものと期待される。また、ノビシダ菌(Fransicella tularensis subsp. novicida)は野兎病菌(Fransicella tularensis subsp.holarctica)の類縁菌である。両菌のマクロファージ内増殖には共通性が認められるが、カイコ内増殖は異なることが示唆されたため、比較検討することにより共生に関与する因子の同定が可能になると考えられる。概ね計画どおり進捗していると言える。

今後の研究の推進方策

概ね計画どおり進捗しているため、計画どおり研究を進める。本年度同定したSLTがカイコへの共生に必要な因子かどうか解析を進める。また、新たな菌側因子を検索するために、トランスポゾンを用いたランダム挿入変異法により、共生しない変異株の作出を引き続き行う。これまでに得られたカイコ内で共生できない菌の性状解析も同時に行う。共生因子は既知の増殖ステージに関与する病原因子とは別の機能因子群の可能性も考えられるため、マクロファージ内増殖能について比較解析を同時に行う。野兎病菌およびノビシダ菌のゲノム情報はすでに公開されているため、これらを比較検討し、野兎病菌の共生因子の検索を行う。
共生因子の機能解析を分子レベルで行うために、カイコ由来の培養細胞を用いた解析を行う。野兎病菌野生株とカイコに共生できない変異株およびノビシダ菌を用いてカイコ細胞内における菌の増殖能の検討を行う。さらにカイコ細胞内におけるこれらの菌株の動態を細胞生物学的手法を用いて解析を行う。共生に関与する菌側因子の同定とそれら因子と相互作用するカイコ細胞側因子の検索を行う。また、細胞内共生に関与するシグナル伝達経路を解明するために、複数の阻害剤を用いた解析を試みる。これらの成果をもとに感染制御法構築の基盤となる成果を得る。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Soluble lytic transglycosylase SLT of Francisella novicida is involved in intracellular growth and immune suppression2019

    • 著者名/発表者名
      Nakamura Takemasa、Shimizu Takashi、Uda Akihiko、Watanabe Kenta、Watarai Masahisa
    • 雑誌名

      PLOS ONE

      巻: 14 ページ: e0226778~8

    • DOI

      10.1371/journal.pone.0226778

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Attenuated Legionella pneumophila Survives for a Long Period in an Environmental Water Site2019

    • 著者名/発表者名
      Nishida Takashi、Nakagawa Natsuko、Watanabe Kenta、Shimizu Takashi、Watarai Masahisa
    • 雑誌名

      BioMed Research International

      巻: 2019 ページ: 1~8

    • DOI

      10.1155/2019/8601346

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Expression of Francisella pathogenicity island protein intracellular growth locus E (IglE) in mammalian cells is involved in intracellular trafficking, possibly through microtubule organizing center2019

    • 著者名/発表者名
      Shimizu Takashi、Otonari Shiho、Suzuki Jin、Uda Akihiko、Watanabe Kenta、Watarai Masahisa
    • 雑誌名

      MicrobiologyOpen

      巻: 8 ページ: e00684~e00684

    • DOI

      10.1002/mbo3.684

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 自然宿主と野兎病菌の共生関係2020

    • 著者名/発表者名
      度会雅久
    • 学会等名
      第93回日本細菌学会総会
    • 招待講演
  • [学会発表] 野兎病菌Soluble lytic transglycosylaseは細胞内増殖および細胞傷害性に関与する2019

    • 著者名/発表者名
      仲村岳真、清水隆、渡邉健太、度会雅久
    • 学会等名
      第162回日本獣医学会学術集会
  • [備考]

    • URL

      http://www.vet.yamaguchi-u.ac.jp/members/watarai-p.html

URL: 

公開日: 2021-01-27  

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