研究課題/領域番号 |
17H03919
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
八田 岳士 北里大学, 医学部, 講師 (00455304)
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研究分担者 |
中尾 亮 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (50633955)
白藤 梨可 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 助教 (00549909)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | フタトゲチマダニ / ロンギスタチン / 唾液分子 / 転写因子 / RNAseq |
研究実績の概要 |
マダニは私たちの体表に寄生して、多種多様な薬理物質を宿主体内に放出しながら吸血を成し遂げる。本研究では未解明にあるロンギスタチン産生の発端や産生後の挙動、宿主における応答機構を明らかにし、ロンギスタチンの機能・構造に基づいたワクチン、予防薬など動物・ヒト疾患制御の方策を探る。 本年度の研究では、ロンギスタチンを含む唾液生理活性物質発現を調節する転写因子を明らかにすることを目標とし、その遺伝子同定を中心に行った。フタトゲチマダニ単為生殖系岡山株を用い、未吸血(吸血後0日目)の成ダニから唾液腺を解剖顕微鏡下で回収し、全RNAを抽出した。同様の操作を、吸血後2日目(slow feeding)と4日目(rapid feeding)のサンプルを用いて行い、各ステージの全RNA抽出を行った。各々4Gbスケールでのillumina Hiseq2000によるRNAseq解析を行った。 得られた配列より転写因子の探索を行ったところ、唾液腺での生理活性物質発現を調節する転写因子として、低酸素応答因子であるHIF(hypoxia inducible factor)-1αとβの遺伝子全長の解読に成功した。唾液腺にHIFが発現する生物学的意義について更なる検証が必要である。今回の解析では、正常酸素濃度条件において、HIF転写活性の抑制に参画するHIF-1αプロリン残基水酸化酵素hypoxia-inducible factor prolyl hydroxylase (HIF-PHD)、アスパラギン残基水酸化酵素factor inhibiting HIF1α (FIH-1)、ユビキチンリガーゼvon hippel-lindau tumor suppressor (pVHL)をコードする遺伝子について同定に成功しており、逆にHIFの転写活性増強に係るE1A/CREB-binding protein様の遺伝子についても同定することができた。これらは、HIF-PHD axisの全容解明から唾液分子の発現に係る起因事象を科学的に証明しうる基盤情報となるため、次年度以降の研究遂行を加速することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は段階的に研究を遂行し、ロンギスタチンを含む唾液腺分子の産生の発端や産生後の挙動、宿主における応答機構等を明らかにすることを目的としている。初年度の成果として、各吸血ステージ(未吸血期、緩慢吸血期、迅速吸血期)の唾液腺に発現する遺伝子についてRNAseqによる全配列の解明と、バイオインフォマティクスを利用したアノテーションを付与するためのトランスクリプトーム解析までを終えることができた。大規模遺伝子配列解析の結果、発現レベルとしてはレアな転写因子抑制因子についても同定することができた。また、緑色蛍光発現バベシア原虫についても作製に成功している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では今回得られたHIFが支配する遺伝子領域を網羅的に解析するため、RNAiを応用し、HIF-1αの発現抑制(kd)マダニを作出し、コントロールと比較したマイクロアレイ解析を行う予定である。これによりHIFの支配遺伝子を網羅することが可能となり、そのうえで、候補遺伝子の上流を解析することにより酸素応答配列(hypoxia response element:HRE)の有無を確認し、実際に支配領域を決定していきたい。これによりロンギスタチン産生の起因事象の一端を解明することが可能となる。
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