マダニは私たちの体表に寄生して、多種多様な薬理物質を宿主体内に放出しながら吸血を成し遂げる。我々は、マダニの唾液腺から炎症反応の発端となるRAGE受容体に結合後、情報伝達系を介してサイトカインなど一連の炎症反応を抑制する唾液分子ロンギスタチンを見出し、天然物から初のRAGE阻害剤の発見として大きな反響を得た。本研究では未解明にあるロンギスタチン産生の発端や産生後の挙動、宿主における応答機構を明らかにし、ロンギスタチンの機能・構造に基づいたワクチン、予防薬など動物・ヒト疾患制御の方策を探るものである。 これまでにEST解析やNGS解析を通して明らかとなったmRNAの配列情報とその発現量をもとに、既知のプロモーターと同様転写活性の高い遺伝子に着目をし、アクチンについてのプロモーターを獲得することに成功した。そこでロンギスタチンのプロモーター配列の取得を試みたがGC含量が多いことが起因しクローニングには至らなかった。さらにゲノムDNAを新たに鋳型として、唾液腺を含む各臓器において発現量の高い翻訳伸長因子の遺伝子についての上流配列を約3kb得ることに成功した。この翻訳伸長因子プロモーター配列は、マダニ培養細胞内を用いたレポーターアッセイにより活性を確認し、特に転写開始点上流1Kbで活性が最も高かった。これはマダニ細胞内で活性を有する哺乳類PGKプロモーターよりも有意に高い活性を示していた。本配列の同定は、これまでoff-target効果が懸念されつつもRNAiに依存してきた逆遺伝学的手法を見直し、CRISPR-Cas9によるノックアウト技術の確立へと結びつき、期間内では明らかにすることができなかったロンギスタチンの生理学的意義についてより詳細に検討を加えることが可能となる。
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