研究課題
本研究では獣医臨床において重要性の高い犬の悪性腫瘍を対象とし、次世代シーケンサーによる網羅的な遺伝子発現プロファイルおよびゲノム異常をバイオインフォマティクスを用いて解析し、その解析結果をもとに作成した遺伝子発現・変異パネルによる腫瘍の各サブタイプごとの適切な治療法選択と正確な予後予測を可能とすることを目指している。本年度は特に犬の組織球性肉腫に焦点を絞りエキソーム解析によってそのゲノム異常を網羅的に解析した。各症例からそれぞれ3-6遺伝子の変異が体細胞変異として同定され、TP53、PDGFRB、N4BP2、SH3KBP1などをコードする遺伝子における変異を含んでいた。これらの遺伝子は、人医学領域を含めて過去に腫瘍との関連が示唆されており、これらの症例において組織球性肉腫の発生や病態に関与していることが予想された。さらにこれらの遺伝子はPI3K-Akt/MAPK/p53経路に関わる遺伝子群であり、これらの経路の破綻が本腫瘍の発生・病態に重要な役割をもつことが示唆された。さらに、これらの遺伝子のうちTP53をコードする遺伝子における変異に関しては犬の組織球性肉腫の38%で共通する挿入変異を見出した。この変異によって正常な機能を持つTP53の発現が失われることも明らかとなり、さらにはこの変異を持つ腫瘍細胞の割合が同一症例の腫瘍組織内でも採取した部位によって大きく異なることから、犬の組織球性肉腫は腫瘍内不均一性を有する疾患であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
上記のように本年度は犬の組織球性肉腫に焦点を絞り主にエキソーム解析のデータ解析を行った。その結果は解析を行う症例数をさらに増やした上で学術論文として発表する予定としているが、特にTP53をコードする遺伝子に関しては、共通する挿入変異が存在することを学術論文として報告しており、さらにはその変異によってTP53の正常な機能が失われること、及び腫瘍内不均一性が認められることもそれぞれ学術論文として投稿済みである。これらの成果から鑑みておおむね順調に進展していると判断できる。
来年度も引き続き犬の悪性腫瘍組織における分子異常の網羅的探索を実施する予定である。まずは、本年度に中心的に行っていた犬の組織球性肉腫を対象としたエキソーム解析に関してさらに多くの症例を用いた解析に発展させるとともにRNAシーケンシングにも着手する。また、本年度収集を行っていたリンパ腫および肥満細胞腫の腫瘍組織サンプルに関しても、収集を継続するとともにエキソーム解析およびRNAシーケンシングを実施する。これらのデータに関してバイオインフォマティクスを用いた解析を行うことにより、各腫瘍間および腫瘍内で認められた遺伝子発現プロファイルや遺伝子異常の違いに関して生物学的意義を探索するとともに、各症例の臨床情報と統合することで各腫瘍性疾患の分子病理学的な細分類の可能性を見いだす。またそれぞれの腫瘍の細分類に有用と考えられる遺伝子発現パネルおよび遺伝子変異パネルを探索する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 3件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件)
Veterinary and Comparative Oncology
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