研究課題/領域番号 |
17H03921
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
辻本 元 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (60163804)
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研究分担者 |
渡邊 学 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (70376606)
富安 博隆 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (70776111)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分子病理学 / RNAシーケンシング / エキソーム解析 / 腫瘍 / バイオインフォマティクス |
研究実績の概要 |
本研究では獣医臨床において重要性の高い犬の悪性腫瘍を対象とし、次世代シーケンサーによる網羅的な遺伝子発現プロファイルおよびゲノム異常をバイオインフォマティクスを用いて解析し、その解析結果を基に腫瘍ごとの適切な治療法選択と正確な予後予測を可能とすることを目指している。 本年度は、昨年度に中心的に解析を行なっていた犬の組織球性肉腫に関して、さらに多くの症例を用いてエキソーム解析およびRNAシーケンシング解析を行なった。その結果、エキソーム解析においては全216遺伝子の変異が抽出され、これらの統計学的な解析により、特定の細胞内シグナル伝達経路に関わる遺伝子群における変異が犬の組織球性肉腫の症例に共通する可能性が見出された。また、RNAシーケンシングによって、この細胞内シグナル伝達経路に関わる受容体型チロシンキナーゼが全症例で高発現していることが明らかとなった。これらの結果は犬の組織球性肉腫において、この受容体型チロシンキナーゼから開始する細胞内シグナルが腫瘍細胞の生存や増殖に重要な役割を果たしている可能性を示唆するものと考えられる。 また犬の組織球性肉腫の約半数で認められることが明らかとなったTP53遺伝子に関しては、これまでに特定の挿入変異が38%の症例で共通して認められることを報告したが、この挿入変異の臨床的意義に関しては不明となっていた。そこで、各種臨床検査所見とこの挿入変異との関連を調べたところ、同変異を保有する症例群では有意に転移病巣を有する症例が多いことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、特に重点的に解析を行なって来た犬の組織球性肉腫に関しては、特定の細胞内シグナル伝達に共通して異常が認められる可能性が見出された。この知見は病態の根源を標的とした新規治療法の確立に至る可能性がある非常に重要なものであると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は最終年度であり、引き続き犬の悪性腫瘍組織における分子異常の網羅的探索を実施するとともにそこで得られた知見を学会発表および学術論文としてまとめていく予定である。 まずは、これまで中心的に行ってきた犬の組織球性肉腫を対象としたエキソーム解析およびRNAシーケンシングによって同定された、症例間で共通する異常シグナル経路に関して、さらに多くの症例を用いてタンパク質レベルでの確認を行なっていく。さらにこのシグナル経路を治療標的と捉えその経路を特異的に阻害する分子標的薬の抗腫瘍効果を検討するとともに、新規治療法としてその臨床応用の可能性を探索する。 また、昨年度も引き続き収集を行っていたリンパ腫および肥満細胞腫の腫瘍組織サンプルに関しても、エキソーム解析およびRNAシーケンシングを実施しそのデータ解析を行う予定である。 さらに、これらのデータを用いて、各腫瘍間の遺伝子発現プロファイルや遺伝子異常の違いをバイオインフォマティクスによって解析することで、その生物学的意義を探索するとともに、各症例の臨床情報と統合することで各腫瘍性疾患の分子病理学的な細分類の可能性を見いだす予定である。
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