研究課題/領域番号 |
17H03923
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
永岡 謙太郎 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (60376564)
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研究分担者 |
藤田 知之 順天堂大学, 医学部, 先任准教授 (00419392)
金蔵 孝介 東京医科大学, 医学部, 講師 (10508568)
伊藤 昌彦 浜松医科大学, 医学部, 助教 (50385423)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | CPEB1 / 乳癌 / 低分子化合物スクリーニング |
研究実績の概要 |
本研究は、乳腺上皮細胞と乳癌細胞における細胞質ポリアデニル化複合体機能の相違点を解明し、複合体を正常に機能させる制御メカニズムを明らかにすること で、乳癌の発生と進行を抑える創薬開発につなげることを目的としている。以下、3つの実施項目ごとに今年度の実績を報告する。 「正常乳腺細胞と乳癌細胞における複合体機能の相違点」については、複合体構成タンパクのプロファイリングを行い、癌細胞に特有のタンパク質候補を得た。RNAの解析についても、ポリA鎖の長さによりmRNAの分画を行った後、マイクロアレイに供した結果、多くの候補遺伝子が得られた。現在、タンパクとmRNAレベルでの結果の比較を行っており、癌細胞もしくは正常細胞に特異的な候補因子を決定する。 「CPEB1発現制御メカニズム ー発現解析―」については、ヒト臨床サンプル24検体とイヌ臨床サンプル64検体、およびネコ臨床サンプル10検体を用い、CPEB1とPARN遺伝子の発現解析を行った結果、ヒトとイヌにおいて正常部ではCPEB1発現が高く、癌部ではPARN発現が高いことをmRNAレベルで明らかにした。興味深いことにネコにおいては結果が逆になっている傾向が得られている。ネコについてはサンプル数が少ないため、解析数を増やして確認したい。また、ヒトとイヌ乳癌細胞を用いた解析により、CPEB1発現はエストロゲンにより抑制され、癌化や転移に関わる細胞増殖や移動能が上昇する結果が得られた。 「CPEB1発現制御メカニズム ースクリーニング―」については、CPEB1プロモーター領域(上流2kb)接続NanoLuc発現コンストラクトをMCF7細胞に導入し安定細胞株を得た。本安定株はエストロゲンにより、Luc発現が低下することを確認しており、現在、東京大学創薬機構より1950化合物のライブラリーを購入しケミカルスクリーニングを実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究項目「正常乳腺細胞と乳癌細胞における複合体機能の相違点」に若干の遅れがあると思われる。当初の計画では、「翻訳活性プロテオーム・データベース」と「ポリA鎖RNA-seqデータベース」が完成し、候補因子を確定している予定であったが、現在、確定中である。 研究項目「CPEB1(およびPARN)発現制御メカニズム ー発現解析―」において、ヒトおよび犬猫の臨床サンプルの収集が順調に進んでいる。ヒトと同様にイヌにおいても正常乳腺組織にはCPEB1遺伝子が高発現しているが、癌組織ではPARN遺伝子が高くなる結果が得られ、CPEB1やPARNが動物種を超えた癌制御因子として有望であることが示された。ネコについてはサンプル数が少ないため、次年度に解析を進める。しかし、ヒトとイヌの癌細胞(MCF7)を用いた解析において、計画時点以上の結果が得られており、現在の癌治療において初期選択されるホルモン療法に対する基礎データの取集が期待できる。 研究項目 「CPEB1(およびPARN)発現制御メカニズム ースクリーニング―」のCPEB1およびPARN遺伝子の上流域解析、低分子化合物スクリーニング用のコンストラクト作成と安定発現細胞の作成が完了したが、低分子化合物のスクリーニングの際に重要なLucアッセイのバリデーション評価に手間取り、実施に遅れが生じた。しかし、バリデーション評価が安定する培養条件やハンドリングが確定したため、化合物ライブラリーを用いた本試験を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には前年度に引き続き解析を実施する 研究項目「正常乳腺細胞と乳癌細胞における複合体機能の相違点」については、正常乳腺細胞と乳癌細胞においてmRNAのポリA鎖の長さと翻訳活性レベルが連動する因子を抽出を完了させ、速やかにin vitro試験に移行する。ヒトとイヌの乳癌細胞を用いた実験は別項目で既に実施している事から、候補因子の決定後、問題なく試験を推進できる。 研究項目「CPEB1(およびPARN)発現制御メカニズム ー発現解析―」については、ネコの臨床サンプルの収集に努めるとともにヒトとイヌの乳癌細胞に対するホルモンの作用機序についても解析を続ける。また、CPEB1およびPARN欠損細胞株を作成し、細胞の癌化や転移能について詳細な検討を行う。当初の計画上にはないが、ホルモン療法に対する重要なデータが得られると考えられる。 研究項目「CPEB1(およびPARN)発現制御メカニズム ースクリーニング―」については、実施中の低分子化合物スクリーニングの結果を持って、CPEB1もしくはPARNを制御しうる低分子化合物を同定し、上記、細胞株を用いたin vitro試験を遂行する。当初の計画にはないCPEB1およびPARN欠損細胞株を用いて通常の乳癌細胞との比較を行う事で、CPEB1やPARNを介さない化合物の区別が可能となり、計画の遅れを取り戻すことが可能と考えている。
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