研究課題
平成29年度は、家族性成犬発症型運動失調症、犬のオロット酸尿症およびメチルマロン酸尿症のそれぞれ1家系を対象に、次世代シーケンサーによる全ゲノムシーケンス解析を実施した。家族性成犬発症型運動失調症では、一定の関連領域を見出し、そこに2つの候補遺伝子が存在したが、エクソン領域に候補変異になりうる配列異常は認められなかった。しかし、同遺伝子のあるイントロン領域に数百塩基対の挿入が認められることがわかり、この領域を解析しているところである。一方、犬のオロット酸尿症およびメチルマロン酸尿症は、全ゲノム解析が完了したところであり、今後、候補遺伝子と変異を検索していく予定である。分子疫学調査(予防)および治療試験は、一旦、犬の変性性脊髄症に切り替えて実施した。犬スーパオキシドジスムターゼ遺伝子の2種類の変異(c.118G>Aおよびc.52A>T)を同一犬舎内の犬集団で調査した。その結果、変性性脊髄症の両変異は集団内に高い割合で存在したため、次世代に本疾患の発症リスクとなる遺伝子型を有した個体を作成しないような繁殖コントロールを実施した。さらに、すでに存在する発症リスクの犬に対しては、抗酸化能を有する発酵食品由来のサプリメントを投与する臨床試験を開始した。一方、柴犬のサンドホフ病が米国で同定されたため、日本の柴犬集団の変異アレル頻度調査を実施した。その結果、現時点で日本の柴犬にキャリアは存在しなかった。さらに、アジア諸国の家猫集団における赤血球ピルビン酸キナーゼ欠損症の変異アレル頻度の調査を開始した。その結果、東南アジアでは、本疾患の変異アレルがかなり高い頻度で存在することが明らかとなった。なお、平成29年度には、新たに犬のエーラスダンロス症候群およびムコ多糖症の症例を診断できたため、これらの疾患を本研究課題に加えて、次年度以降解析していく計画とした。
2: おおむね順調に進展している
解析を開始した疾患については、現時点で原因変異の同定に至っていないものの、かなり核心に迫るレベルまで近づけている。それらの疾患については、すでに全ゲノム解析データが得られたため、今後はこれらのデータを基盤として調査することができるため、全貌解明にかなり接近したと考えている。分子疫学調査および治療試験の対象疾患が犬の変性性脊髄症に変更されたものの、初年度には計画していなかった抗酸化サプリメントを使った臨床試験を早期に開始することができた。さらに、計画に挙げていなかった家猫の赤血球ピルビン酸キナーゼ欠損症が、バングラデシュやインドネシアなど東南アジア諸国で非常に高頻度に存在することがわかったことは、今後の研究に好材料を提供することとなった。さらに、初年度に新たに新規の2疾患(エーラスダンロス症候群およびムコ多糖症)が同定されて、それらを本研究に追加することができたため、研究対象の範囲はさらに広がり研究内容を充実させることとなった。
計画通りに解析が進んでいる疾患(家族性成犬発症型運動失調症、オロット酸尿症およびメチルマロン酸尿症の犬の1家系)については、今後も計画通りに展開していく。計画に反して解析に着手できなかった疾患(神経セロイドリポフスチン症の犬の複数家系、猫のムコ多糖症の猫の複数家系、など)については、その準備が整った段階で全ゲノム解析などの網羅的分析を開始する。平成29年度に、新たに設定した疾患(犬の変性性脊髄症)の調査および治療試験研究は、今後も継続して長期の効果は観察していくことなる。一方、新たに同定・診断した疾患(犬のエーラスダンロス症候群およびムコ多糖症)については、本研究に加えて解析していく。さらに、今後も新たに同定診断される動物疾患を本研究計画に加えていく予定である。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 10件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件、 招待講演 4件) 図書 (1件)
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