研究課題/領域番号 |
17H03928
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高田 健介 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (40570073)
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研究分担者 |
稲葉 睦 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (00183179)
山崎 淳平 北海道大学, 獣医学研究院, 助教 (20732902)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 免疫記憶 / T細胞 / 生体防御 |
研究実績の概要 |
過去に感染した病原体が再び体内に侵入すると、免疫系はより素早く強力に応答し、病原体は速やかに排除される。この現象は免疫記憶と呼ばれ、ワクチンに応用されてきたが、免疫記憶の詳細な成立機構は未だ明らかにされていない。免疫記憶の本体は抗原特異的な応答の後、体内で長期間維持される記憶リンパ球であり、記憶Tリンパ球の分化機構を解明することは、細胞性免疫記憶を誘導可能なワクチンの開発基盤となる。記憶Tリンパ球の分化には、脂肪酸分解を主とする脂質代謝が重要な役割を果たすことが近年明らかとなってきた。本研究は、RORファミリー核内受容体が代謝を競合的制御することで、記憶Tリンパ球の分化を担うという仮説のもと、免疫記憶機構の解明を目的とする。さらに、これらの核内受容体に特異的な合成リガンドを用いて、ワクチン療法に応用することを目指す。本研究計画2年目の2018年度では、当該核内受容体に対する特異的リガンドが、in vitroで活性化CD8Tリンパ球の生存と機能に影響するという前年度の知見に基づき、この現象に関与する分子および代謝経路の解明を試みた。モノクローナル抗原受容体発現CD8T細胞に抗原刺激を与えて活性化させたのち、核内受容体RORあるいはREV-ERBに対する合成リガンドとIL-2の存在下で培養した。得られた細胞から抽出されたRNAをもとにマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、脂質合成に関与する一連の酵素が核内受容体リガンドの処理によって変動することが明らかとなった。また、この合成経路の最終産物や阻害剤を培養液中に添加することで、活性化T細胞に対する核内受容体リガンドの影響が消失した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、CD8Tリンパ球の生存と機能における当該核内受容体の関与とそのメカニズムをin vitroの実験系で明らかにしたことで、次年度のin vivoにおける検討の基盤が確立された。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度の検討から、当該核内受容体に対する特異的アゴニストが、脂質合成経路の制御を介して活性化CD8T細胞の生存と機能に影響することがin vitroで示された。この知見に基づき、2019年度は、当該核内受容体の欠損および特異的合成リガンドの投与がTリンパ球の活性化と記憶形成に与える影響をin vivoで検討する。
1)核内受容体RORαおよびREV-ERBの欠損がTリンパ球の抗原応答と記憶形成に与える影響をin vivoで明らかにする。RORαおよびREV-ERBαの遺伝子欠損マウスを、OT-I 抗原受容体トランスジェニックマウスと交配する。RORα欠損マウスは小脳の異常によりTリンパ球成熟前に若齢で死亡してしまうため、骨髄特異的にRORαを欠損する骨髄キメラマウスを作成する。これらのマウスの二次リンパ組織から、それぞれの核内受容体を欠損し、卵白アルブミンを特異的に認識するモノクローナルCD8Tリンパ球を得る。得られたCD8Tリンパ球をレシピエントマウスに養子移入し、卵白アルブミン発現リステリア菌を感染させて抗原刺激を与える。感染後、経時的に細胞数や表現型の変化、再刺激後のエフェクター分子(炎症性サイトカイン、細胞障害因子)の産生を検討する。さらに、それぞれの核内受容体を欠損するエフェクターTリンパ球および記憶Tリンパ球を上述の方法で作成し、in vitroの実験から明らかとなった脂質合成関連遺伝子の発現解析および代謝産物の測定を行う。
2)正常なOT-I 抗原受容体発現Tリンパ球をレシピエントマウスに養子移入し、卵白アルブミン発現リステリア菌を感染させる。感染後、Tリンパ球が活性化され、記憶が形成される様々なタイミングで、核内受容体リガンドあるいは脂質合成阻害剤をレシピエントマウスに投与し、ドナーTリンパ球の数、表現系および機能に及ぼす影響を検討する。
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