研究実績の概要 |
過去に感染した病原体が再度体内に侵入すると、免疫系はより素早く強力に応答する。この現象は免疫記憶と呼ばれ、ワクチンに応用されてきた。しかし、免疫記憶の詳細な成立機構は未だ明らかにされていない。免疫記憶の本体は抗原特異的な応答の後、体内で長期間維持される記憶リンパ球である。記憶Tリンパ球の分化と機能を制御する分子機構の解明は、細胞性免疫記憶を誘導可能なワクチンやがん免疫療法の開発基盤となる。本研究では、記憶リンパ球分化の過程で顕著な発現上昇を示すRORファミリー核内受容体に着目し、記憶CD8+Tリンパ球の分化および機能の制御における当該分子の関与を検討した。本研究計画の最終年度である令和3年度には、RORalphaの活性化がコレルテロール代謝関連遺伝子の発現制御を介して活性化CD8Tリンパ球の生存に影響を与えるというこれまでの知見をまとめ、専門誌に報告した(Cai et al., 2021 Immunol & Cell Biol)。さらに、特定の記憶CD8+Tリンパ球亜集団においてRORalphaが顕著に高い発現を示すことを見出した。RORalphaの変異により、この記憶CD8+Tリンパ球亜集団のサイトカイン産生機能は大きく障害された。現在、記憶CD8+Tリンパ球におけるRORalphaの標的遺伝子を解明すべく網羅的遺伝子発現解析を進めており、本年度の検討から、今後の発展につながる重要な知見を得た。
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