• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2017 年度 実績報告書

新規リソソームタンパク質による神経筋組織の恒常性維持機構の解明

研究課題

研究課題/領域番号 17H03930
研究機関東京大学

研究代表者

西原 真杉  東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (90145673)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード生理学 / 神経組織 / 筋組織 / プログラニュリン
研究実績の概要

本年度には、神経組織については感染ストレス時や老齢期における神経炎症、及び海馬歯状回の神経新生におけるプログラニュリン(PGRN)の役割について検討した。マウスを用いたリポ多糖投与による感染ストレスモデルにおいては、活性化ミクログリアにおけるPGRNの発現上昇とともに、神経新生の抑制、mTORシグナリングの抑制を介したリソソーム生合成の促進、炎症性サイトカイン遺伝子の発現上昇が起こるが、PGRNノックアウトマウスにおいてはこれらの反応が増悪することから、PGRNは感染ストレス時には神経炎症を緩和することにより神経新生を維持していることが示唆された。一方、加齢とともに脳内ではミクログリアの活性化や神経新生の減少が起こるが、PGRNノックアウトマウスではCD68陽性活性化ミクログリア数、リソソーム生合成、炎症性サイトカイン遺伝子発現がいずれも上昇していたが神経新生には差がなかったことから、PGRNは加齢に伴う神経炎症は抑制するが神経新生の減少には影響しないことが示唆された。さらに、ペンチレンテトラゾール・キンドリング後に生じるミクログリアの活性化、アストロサイトの増殖、自発的な神経細胞の過剰興奮にはIL-1シグナリングが関与していること、またPGRNは神経細胞の細胞間接触を介してアストロサイトにエストロゲン受容体の発現を誘導していることが示唆された。
一方、筋組織についてはカルジオトキシンを用いて筋損傷を行い、その修復過程におけるPGRNの役割について検討した。その結果、PGRNは主に損傷部位に集積するマクロファージに発現すること、損傷後にはPGRNノックアウトマウスにおいてM2型マクロファージが多く残存することや筋線維径が増加することが明らかとなり、筋修復過程におけるPGRNの欠損は、M2型マクロファージの残存、及び再生筋線維の肥大につながることが示唆された。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

我々は脳の性分化や神経新生に関与するタンパク質として、成長因子として知られているPGRNを同定した。PGRNの受容体や作用機序については不明な点が多いが、我々はPGRNがリソソームに局在すること、プロモーター領域にリソソームタンパク質に特徴的なCLEAR配列を有すること、オートファジーの機能制御に関与することなどを発見し、PGRNが新規のリソソームタンパク質であることを示した。また、我々はPGRNが脳傷害時にミクログリアにおいて発現が上昇し、その過剰な活性化を抑制することにより神経保護作用を示すこと、筋損傷時にもPGRNの発現が上昇してその修復に関与していることを示唆した。本研究ではPGRNのリソソームタンパク質としての機能を解明し、PGRNによる神経組織及び筋組織の修復や恒常性維持機構を明らかにすることを目指している。
現在までに、PGRNの発現が低下するとリソソームの生合成が増加すること、ソルチリンやマンノース6リン酸受容体がPGRNをリソソームに輸送してその酸性化に関与していることなどを見出している。さらに、PGRNの発現低下によるリソソームの機能低下が異常タンパク質の蓄積による神経変性疾患の原因となることを示唆した。また、PGRNが欠損すると興奮性アミノ酸アゴニストや抑制性アミノ酸アンタゴニストにより誘発されるてんかん発作が亢進すること、アストロサイト特異的にエストロゲン受容体を欠失することなどの知見を得ている。神経興奮性の上昇が神経炎症に繋がること、また脳傷害時の性ステロイドの神経保護作用の少なくとも一部はアストログリオーシスの抑制によることが知られているため、これらの機序を明らかにすることは重要である。実験的脳傷害モデルや筋損傷モデルを用いたPGRNの神経組織及び筋組織の修復における役割の解明も進展しており、研究はおおむね順調に進展していると言える。

今後の研究の推進方策

PGRNによる神経組織及び筋組織の修復や恒常性維持機構の解明を目的として、実験的脳傷害モデルや筋損傷モデルを用いて、神経組織及び筋組織の損傷時におけるPGRNの発現パターンや発現細胞の検討を進める。さらに、これらの組織の修復過程に対するPGRNの関与を明らかにするために、ミクログリアやマクロファージの集積、リソソームマーカー等を野生型マウスとPGRN ノックアウトマウスで比較する。我々は既に興奮性アミノ酸アゴニストや抑制性アミノ酸アンタゴニストにより誘起されるてんかん発作がPGRNノックアウトマウスにおいて増悪することを見出しており、PGRNの神経保護作用には過剰な神経興奮を抑制する作用が関与していることを示唆している。その機序をさらに解明するために、興奮性アミノ酸受容体の発現等に対するPGRNの作用を検討する。
さらに最近、ペンチレンテトラゾール(PTZ)誘発性キンドリングモデルにおいて、IL-1受容体(IL-1R1)ノックアウトマウスでは神経炎症やてんかん発作が亢進することを発見した。PGRNはミクログリアの過剰な活性化やIL-1等のサイトカイン放出を抑制して、神経保護的に作用することが報告されていることから、PGRNがIL-1シグナリングのもつ神経興奮性の亢進作用を抑制している可能性が考えられる。そこで、PGRNノックアウトマウスを用いて、同様に PTZキンドリングを行い、神経炎症やてんかん発作について検討する。さらに、PGRNの神経興奮性調節作用におけるIL-1シグナリングの役割を解明することを目的に、PGRN及びIL-1R1ダブルノックアウトマウスを作出し、PTZキンドリングモデル等を用いた解析を行う。また、前年度及び今年度に得られた結果を取りまとめ、学会発表や論文投稿を積極的に行っていく予定である。

  • 研究成果

    (10件)

すべて 2018 2017

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件)

  • [雑誌論文] Progranulin deficiency leads to prolonged persistence of macrophages, accompanied with muscle hypertrophy in regenerating muscle2018

    • 著者名/発表者名
      Sugihara H, Miyaji K, Yamanouchi K, Matsuwaki T, Nishihara M
    • 雑誌名

      Journal of Veterinary Medical Science

      巻: 80 ページ: 346-353

    • DOI

      10.1292/jvms.17-0638

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Skeletal muscle cell contraction reduces a novel myokine, chemokine (C-X-C motif) ligand 10 (CXCL10): Potential roles in exercise-regulated angiogenesis2018

    • 著者名/発表者名
      Ishiuchi Y, Sato H, Tsujimura K, Kawaguchi H, Matsuwaki T, Yamanouchi K, Nishihara M, Nedachi T
    • 雑誌名

      Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry

      巻: 82 ページ: 97-105

    • DOI

      10.1080/09168451.2017.1411778

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Involvement of progranulin in modulating neuroinflammatory responses but not neurogenesis in the hippocampus of aged mice2017

    • 著者名/発表者名
      Ma Y, Matsuwaki T, Yamanouchi K, Nishihara M
    • 雑誌名

      Experimantal Gerontology

      巻: 95 ページ: 1-8

    • DOI

      10.1016/j.exger.2017.05.003

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Progranulin protects hippocampal neurogenesis via suppression of neuroinflammatory responses under acute immune stress2017

    • 著者名/発表者名
      Ma Y, Matsuwaki T, Yamanouchi K, Nishihara M
    • 雑誌名

      Molecular Neurobiology

      巻: 54 ページ: 3717-3728

    • DOI

      10.1007/s12035-016-9939-6

    • 査読あり
  • [学会発表] 老化間葉系前駆細胞は筋衛星細胞の分化能低下を引き起こす2018

    • 著者名/発表者名
      杉原英俊、寺本奈保美、松脇貴志、山内啓太郎、西原真杉
    • 学会等名
      第17回日本再生医療学会
  • [学会発表] ペンチレンテトラゾール誘発キンドリングにおけるアストログリオーシスに対するIL-1シグナリングの関与2017

    • 著者名/発表者名
      黒田万智、大島拓真、松脇貴志、山内啓太郎、Fang-Chia Chang、西原真杉
    • 学会等名
      第160回日本獣医学会
  • [学会発表] Roles of progranulin in regulating hippocampal neurogenesis and neuroinflammatory responses in aged mice2017

    • 著者名/発表者名
      Ma Y, Matsuwaki T, Yamanouchi K, Nishihara M
    • 学会等名
      The 40th Annual Meeting of the Japan Neuroscience Society
  • [学会発表] プログラニュリンのアストロサイト特異的エストロゲン受容体発現に対する関与2017

    • 著者名/発表者名
      道家未央、松脇貴志、山内啓太郎、西原真杉
    • 学会等名
      第2回プログラニュリン研究会
  • [学会発表] プログラニュリンが薬物誘導性てんかん様発作に与える影響2017

    • 著者名/発表者名
      黒田万智、松脇貴志、山内啓太郎、西原真杉
    • 学会等名
      第2回プログラニュリン研究会
  • [学会発表] ノックアウトマウスを用いたプログラニュリン脳内作用の研究2017

    • 著者名/発表者名
      松脇貴志、馬 彦博、山内啓太郎、西原真杉
    • 学会等名
      第2回プログラニュリン研究会

URL: 

公開日: 2018-12-17  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi