プログラニュリン(PGRN)は多様な神経保護作用をもつ因子である。我々はPGRNがリソソームに局在すること、プロモーター領域にリソソームタンパク質に特徴的なCLEAR配列を有すること、オートファジーの機能制御に関与することなどを発見し、PGRNが新規のリソソームタンパク質であることを示した。さらに、我々は興奮性アミノ酸アゴニストにより誘起されるてんかん発作がPGRNノックアウトマウスにおいて増悪することを見出し、PGRNの神経保護作用には過剰な神経興奮を抑制する作用が関与していることを示唆するとともに、NMDA受容体のサブユニットであるNR2Aのタンパク質量が海馬で増加していることを見出した。そこでNMDA受容体サブユニットおよび転写調節因子のmRNA量を定量したところ、いずれもPGRNノックアウトマウスにおいて有意に低値を示したことから、NR2Aタンパク質量増加の原因はリソソームの機能不全によるタンパク質分解の抑制による可能性が考えられ、これらの成果を学術論文として公表した。一方、ペンチレンテトラゾール(PTZ)誘発性キンドリングモデルにおいて、IL-1受容体ノックアウトマウスでは神経炎症やてんかん発作が亢進することを発見した。さらに、IL-1シグナリングは健常脳ではてんかん原性の獲得を抑制するが、てんかん原性を獲得した脳ではグリオーシスを誘導し、脳の炎症とてんかん発作の発現を促進していることが示唆された。PGRNとIL-1はともに細胞外に放出されて作用を示す液性因子であり、主な産生源は神経細胞とミクログリアである。我々はPGRN欠損脳ではミクログリアが過剰に活性化していることを報告しているが、今回の結果と合わせると、PGRN欠損による内因的な神経系の過剰興奮がIL-1の放出を促進し、脳の炎症が誘導されていることが考えられた。
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