研究課題/領域番号 |
17H03932
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
志水 泰武 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (40243802)
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研究分担者 |
山本 欣郎 岩手大学, 農学部, 教授 (10252123)
古江 秀昌 兵庫医科大学, 医学部, 教授 (20304884)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 消化管 / 排便 / 脊髄 / 下行性疼痛抑制経路 / 大腸運動 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、下行性疼痛抑制経路が脊髄で痛みの入力を抑制すると同時に、大腸運動を促進することを証明し、中枢神経が関与する排便異常(下痢や便秘)に対する新たな治療戦略を構築することである。 昨年度の研究において、セロトニン神経の細胞体が豊富に存在する縫線核を電気刺激すると、大腸運動が亢進することが明らかとなり、これまで不明であった中枢神経による大腸運動の制御機構の一端が解明された。本年度は、ドパミン神経やノルアドレナリン神経の細胞体が豊富に存在する線条体や青斑核の刺激実験を展開した。麻酔下のラットを用いて、線条体を電気的あるいは化学的に刺激した場合には、大腸運動の亢進反応は観察されなかった。しかしながら、脊髄にGABA受容体の阻害薬を予め投与しておくと、線条体の刺激後に大腸運動の亢進が認められた。この亢進反応は、脊髄へのドパミン受容体ブロッカー投与により消失した。また、脊髄と大腸の連絡路となる骨盤神経の切断によっても反応が消失した。これらの結果は、線条体から腰仙髄部の排便中枢に連絡している神経からドパミンが放出され、骨盤神経の活性化を介して大腸運動の亢進がもたらされることを示している。同様に、ノルアドレナリン神経の細胞体が豊富に存在する青斑核の刺激においても、同様の結果が得られた。脳幹部と大腸運動の連絡が機能的に解明されたと言える。 侵害刺激物質としてカプサイシンを大腸内腔に投与し、内因性のルートで下行性疼痛抑制経路を活性化させる実験を行ったところ、下行性セトロニン神経とドパミン神経が活性化し、大腸運動が亢進することが判明した。興味深いことに、オスではこのような反応が認められるものの、メスでは反応が惹起されないことがわかった。この結果は、男性で下痢が多く、女性で便秘が多いことと関連する可能性があり、今後十分に検討する必要のある課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脊髄排便中枢と連絡する脳の神経核については、これまで不明であったため、縫線核、線条体、青斑核を刺激した場合に大腸運動が亢進することを究明した成果は重要である。初年度にセロトニンの作用を解明した成果がNeurogastroenterol. Motil.誌に、縫線核を電気刺激した一連の実験成果がAm. J. Physiol.誌に掲載されているが、本年度は、カプサイシンを大腸内腔に投与し、内因性のルートで下行性疼痛抑制経路を活性化させる実験の成果が、Am. J. Physiol.誌に受理されている。さらに、脊髄と大腸の連絡路を解明する過程で、大腸の離れた部位の運動を調整する機序が新たに見出され、この成果をPhysiol. Rep.誌に公表することができた。線条体および青斑核を刺激した成果は、投稿しレフリーのコメントに従いリバイスをしているところである。下行性疼痛抑制経路と大腸運動制御系の脊髄での連動性を解明することは本研究の重要な目標であるが、このように関連する論文が公表できていることから、研究が順調に進められていると判断できる。 一方、脊髄を対象にした免疫組織化学的実験を展開することも計画していたが、十分な成果を得るに至らなかった。これとは別に、下行性疼痛抑制経路の活性化に伴う大腸運動の亢進反応に性差があることが見出されたので、性差の基盤となるメカニズムの解析を進めている。今のところ、GABA作働性下行性神経の寄与が異なることが明らかとなってきている。ヒトにおいて便秘と下痢の発生に性差があることに論拠を与える成果と考えられ、慎重に解析を進めているところである。イムノトキシンを用いて特定の神経を破壊する実験を展開しており、これらの実験が完了した時点で論文作成に入る予定である。 このような成果により、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、脳の神経核を電気刺激する実験、カプサイシンを投与して内在的に下行性モノアミン神経を活性化させる実験を通して、下行性疼痛抑制経路と大腸運動制御系の脊髄での連動性を解明する研究が順調に進展している。この成果に形態学的な裏付けが加わると、より明確な結論を導くことができると考えられるため、今後本格的な実験に取りかかる。研究分担者と打ち合わせを進め、FOS発現により大腸に侵害刺激を与えた場合に活性化する脳の神経核を同定する実験に取り組む、また、トラーサー実験を実施し、脊髄と脳の神経核の連絡を確認することも予定している。 ストレスを与えることによって引き起こされる大腸運動の異常に対して、本研究で解明された下行性疼痛抑制経路が関与するか否かを検証する実験も開始する。イムノトキシンを用いて特定の神経を破壊した動物を作出し、ストレス下で起こる排便異常が影響を受けるか検証する予定である。 性差に関する実験は順調に進んでいるが、よりインパクトの強い成果として公表するために、脊髄排便中枢の成り立ちに性差がある可能性を追究する。現在、脊髄排便中枢の神経細胞におけるモノアミン受容体をsiRNAによりノックダウンする実験系の作出に取り組んでいる。この実験系が確立した場合には、薬理学的実験、電気生理学的実験および行動学的実験を組み合わせて、性差が現れる機序を詳細に検討する予定である。
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