研究課題/領域番号 |
17H03933
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
北村 直樹 鳥取大学, 農学部, 准教授 (80301951)
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研究分担者 |
保坂 善真 鳥取大学, 農学部, 教授 (00337023)
澁谷 泉 鳥取大学, 農学部, 教授 (50162649)
樋口 雅司 鳥取大学, 農学部, 講師 (70614791)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 感覚神経 / ノルアドレナリン / α2アドレナリン受容体 / カプサイシン / TRPV1 / パッチクランプ / 痛み |
研究実績の概要 |
体性感覚神経の細胞体が集まっているラット背根神経節(DRG)より神経細胞(ニューロン)を単離して培養し、ホールセルパッチクランプ法による細胞膜電流の記録に供した。DRGニューロンに発現している侵害刺激受容分子である陽イオンチャネル、TRPV1をcapsaicinで刺激すると、チャネルが活性化し内向き電流が生じる。このcapsaicin電流をnoradrenaline (NA)は0.1 pMという非常に低濃度で抑制した。この反応はα2アドレナリン受容体の拮抗薬(Yohimbine)とβ受容体の拮抗薬(Propranolol)では抑制されたが、α1受容体の拮抗薬(Prazosin)では抑制されなかった。また、capsaicin電流はα2受容体作用薬であるclonidine (1 pM)とdexmedetomidine (1 pM)によっても抑制された。プロテインキナーゼAの触媒サブユニットや脱リン酸化酵素抑制薬であるokadaic acidを細胞内に適用したところ、capsaicin電流に対するNAの抑制作用が減弱した。また、三量体Gタンパクの活性を抑制するGDPβSを細胞内に適用したり、Gi/o型Gタンパクの活性を阻害する百日咳毒素でニューロンを処理したところ、NAのcapsaicin電流抑制作用が減弱した。以上の成績より、NAはα2受容体、Gタンパクの活性化を介してプロテインキナーゼAの活性を抑制することでTRPV1の活性を抑制していることが示唆された。
NAは、交感神経節後線維の神経終末から分泌されるのに加えて、副腎髄質細胞からadrenalineと共に血液中に分泌される。上記の成績から、神経あるいは副腎髄質由来のNAが皮下の組織中においてTRPV1を発現している侵害受容神経線維に働きかけて、痛みの感知を抑制している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りに、培養感覚神経細胞での電気生理学的検討を完了できたため。
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今後の研究の推進方策 |
【皮下でのアドレナリン作動性神経線維と侵害受容神経線維の相互作用】 生体内で、感覚神経線維上のTRPV1をNAが抑制して、鎮痛効果を示す可能性について検討する。まず、皮下の感覚神経線維において、α2アドレナリン受容体とTRPV1分子が共発現しているのか検討する。その上で、アドレナリン作動性神経線維をチロシンヒドロキシラーゼをマーカータンパクとして免疫染色して、アドレナリン作動性神経線維とTRPV1陽性の侵害受容感覚神経線維との空間的位置関係を検討する。また、アドレナリン作動神経線維上にNAなどの伝達物質を分泌する数珠状膨大部がないか、線維上に伝達物質を含んだ小胞が存在していないか電子顕微鏡検索により検討し、アドレナリン作動性神経から分泌されたNAが感覚神経線維上のTRPV1に働きかける可能性について検討する。
【細胞膜上でのα2受容体とTRPV1の蛋白質間相互作用】 NAがα2受容体を介してどのような細胞内シグナル伝達機構を介してTRPV1の活性を抑制しているのかをさらに詳細に検討する必要がある。NAが非常に低濃度で作用を示すことから、DRGニューロンの細胞膜上でα2受容体とTRPV1分子が密接にリンクした状態にあり、ごく一部のα2受容体が活性化されただけでTRPV1の活性が抑制されることが考えられる。そこでまず、これら二つ分子が相互にリンクしている状態にあるのかを検討する。HEK293細胞を用いて、TRPV1分子を安定発現する細胞株を作製する。その細胞にα2受容体分子を一過性に発現させて、パッチクランプ法によりα2受容体がTRPV1活性を抑制するかを確認する。抑制が確認された場合には、免疫沈降法やプルダウンアッセイ法などにより、生化学的にタンパク質間相互作用がないかを検討する。
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