研究課題
ES細胞は、胚盤胞期の将来胚体を形成する内部細胞塊から樹立された細胞であり、胎盤などの胚体外組織への分化能を失った多能性細胞であると信じられてきた。しかし、最近ES細胞には非常に低い割合で内在性のレトロウイルスであるMuERV-L (murine endogenous retrovirus with leucine tRNA primer)を発現する細胞集団が存在することが報告された。また、これらの細胞集団は、初期の着床前胚に移植した場合に、内部細胞塊だけではなく、栄養外胚葉にも寄与することから、全能性を有すると結論されている。今年度は、MuERV-Lの発現を指標にES細胞に含まれる全能性細胞を可視化できる実験系を確立した。このES細胞を用いて、①FCSの代わりにKSRを用いて、培地交換なしで5日間培養することにより、効率よく全能性細胞を誘導できること、②多能性細胞から全能性細胞の転換にはGSK3とErkの活性が必要なこと、③全能性細胞では、多能性マーカー以外に、2細胞期で一過的に発現する"2-cell gene"、栄養外胚葉のマーカー、原始内胚葉のマーカー、および我々が同定した全能性細胞で特異的に発現する遺伝子群、の発現が発現すること、④全能性細胞では、解糖系に関与する酵素の発現が有意に低下すること、を明らかにした。また、全能性細胞をソーティングしてタンパク質の発現を免疫染色で検討したところ、MuERV-L陽性細胞においてOct3/4やNanogの発現が不均一であることを明らかにした。MuERV-L陽性細胞で発現が上昇していた5つの全能性細胞特異的遺伝子を、全能性を可視化できるES細胞で強制発現させてみたが、全能性細胞は誘導されなかった。今後、複数の全能性細胞特異的遺伝子を同時に発現させることで全能性細胞が誘導できるか検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
現在までに、MuERV-Lの発現を指標にES細胞に含まれる全能性細胞を可視化できる実験系を確立した。今年度は、当初の予定通り、このES細胞を用いて、①FCSの代わりにKSRを用いて、培地交換なしで5日間培養することにより、効率よく全能性細胞を誘導できること、②多能性細胞から全能性細胞の転換にはGSK3とErkの活性が必要なこと、③全能性細胞では、多能性マーカー以外に、2細胞期で一過的に発現する"2-cell gene"、栄養外胚葉のマーカー、原始内胚葉のマーカー、および我々が同定した全能性細胞で特異的に発現する遺伝子群、の発現が発現すること、④全能性細胞では、解糖系に関与する酵素の発現が有意に低下すること、を明らかににできた。また、全能性細胞をソーティングしてタンパク質の発現を免疫染色で検討したところ、MuERV-L陽性細胞においてOct3/4やNanogの発現が不均一であることを明らかにした。さらに、MuERV-L陽性細胞で発現が上昇していた5つの全能性細胞特異的遺伝子を、全能性を可視化できるES細胞で強制発現させてみたが、全能性細胞は誘導されなかった。今年度は1個のMuERV-L陽性細胞の分化能について検討する予定であったが、移植後の細胞が翌日には死滅するという状況で、明確な結果が得られなかった。しかし、研究全体を通して判断した場合に本研究課題は「おおむね順調に進展している」と考えられる。
今年度は、複数の全能性細胞特異的遺伝子を同時に発現させることで全能性細胞が誘導できるか検討する。また、KSRに交換後、最初の2日間だけ培地交換しないことにより誘導したMuERV-L陽性細胞の分化能を検討する。さらに、全能性細胞特異的遺伝子の中でMuERV-L陽性細胞において発現が上昇していた遺伝子について、マーカーをノックインしたES細胞を作製する。MuERV-L陽性細胞と全能性細胞特異的遺伝子の両方を発現するES細胞における遺伝子発現を網羅的に解析するとともに、分化能について検討を行う。これらの実験と並行して、MuERV-L陽性細胞では、解糖系より酸化的リン酸化の方が優位であるという前年度の結果に基づき、ヘキソキナーゼ阻害剤2-デオキシ-D-グルコースや酸化的リン酸化を阻害するロテノンを用いて、解糖系から酸化的リン酸化への代謝経路の転換が多能性細胞から全能性細胞への転換の原因なのか結果なのかを明らかにする。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (2件)
Cell rep.
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http://www.nagahama-i-bio.ac.jp/research/