研究課題/領域番号 |
17H03950
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
千葉 壮太郎 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (70754521)
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研究分担者 |
藤森 文啓 東京家政大学, 家政学部, 教授 (50318226)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 菌類ウイルス / RNAウイルス / IRES / 翻訳開始機構 / 代謝産物 / 代謝攪乱 / 病原性制御 / マイコトキシン |
研究実績の概要 |
菌類に感染するウイルスは,人類にとって都合の悪い菌類(植物病原菌など)を制御する因子として利用価値を見出され,有用ウイルスの探索が世界中で実施されている。本研究では,菌類ウイルス(マイコウイルス)を宿主の「代謝攪乱因子」として捉え,未知代謝産物を生産させる新ツールとして利用できるかをメタボローム解析し,将来の創薬戦略に資するか検証する。また,菌類ウイルスと宿主菌代謝系の相互作用を新たな切り口とし,毒素生産を制御するような有用ウイルスの分離も試みる。菌類分子生物学の発展に寄与し得る実験ツールとして,ウイルスが独自に発達させてきた特殊な遺伝子発現機構(IRES)を応用し,単一ベクター/単一プロモーター制御下における多重発現系を開発する。以上を通して菌類ウイルスの有用性を独自の視点で明らかにすることを研究目的とする。 分離したウイルス感染株からウイルス除去株を樹立し,ウイルス感染・非感染のisogenic系統間で,菌糸の成長や病原性等の基本的な生物学的特徴に差異を見出した。また,これらの新規マイコウイルスについてゲノム解析を進め,分類学的に新しいウイルス種や既報ウイルスに近縁な種など多数のウイルスについて完全長ゲノムを決定した。また,昨年度の成果から複数種のマイコウイルスからIRESを見出していた。これらの内,代表的なウイルスCHV1とRnMBV1に加えてFgFGV3について,IRESのコア領域を特定し,その特性を明らかにした。以上の成果の一部を纏めて論文として発表したが、最終年度には未発表データの論文化に努める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
同一遺伝型菌のウイルス感染・非感染株樹立が難航していることから、主課題であるウイルス感染による代謝系変化のデータ蓄積は進捗が遅れている。 1)国内のFusarium属菌株約300選抜した13株のウイルス感染株を得た。ハイポウイルス感染株から非感染系統を樹立した。その結果,ウイルス感染により菌糸成長が促進するという結果を得たが、メタボローム解析による2次代謝産物の変動には大きな差が見られていない。また,エンドルナ,ハイポ,ヴィクトリ,ハダカ,パルティティウイルス等の新規ウイルスゲノムをDirect RNA sequencingにより決定し、ウイルス除去に供している。 2)Fusasrium boothiiに感染するウイルス(分類学的に新規の科・属を形成しうる)FbLFV1を分離した。当該ウイルスとDI-RNAが宿主菌の病原性を低減させる作用があることを明らかにした。この作用機作を明らかにするため,RNAseq解析と代謝変化解析を進めている。さらに,ウイルス除去難航のため,Rhizoctonia属菌,Colletotrichum属菌のウイルス感染株から,非感染株の樹立も目指している。 3)植物共生Epichloë属菌からウイルス感染株が発見されず,菌のウイルス防御が発達していると仮説を立てた。RNAi関連遺伝子の破壊株を作製し,既知ウイルス4種を接種した結果、2種のみ感染した。本属菌では,各2種あるDCLおよびAGOホモログのうち,一方のみが抗ウイルス防御に寄与することが明らかにされた。 4)多様なウイルス種からIRESを探索した結果,7つの分類群に属するウイルス種からIRESが発見され,多重遺伝子発現系の開発に有用な素材を取り揃えることができた。これまでに,2種のウイルスについてIRESコア領域を特定し,さらに,活性の高いウイルスのIRESについてさらにコア領域の特定を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の主題である,「マイコウイルス感染による宿主菌の代謝攪乱」を解析するプラットフォームが確立されてきた。これらを用いて順次メタボローム解析を進め,ウイルスが菌類代謝系に与える影響を明らかにする。加えて,ウイルス除去作業を根気よく継続し,ケーススタディの数を増やすことで, ウイルス感染による代謝調節系の変化における一般性や特異性を明らかにするための基盤的情報の取得を目指す。代謝産物の抽出方法でも結果に差が現れるため、複数の方法を検討する。 また,精製したウイルス粒子を用いて,植物共生菌に接種し,それらが二次代謝物質生産を撹乱するか,植物―菌類の共生関係を破綻させるか等を検討する。既に,ウイルス感染株を樹立済みであるため,植物への接種試験を繰り返し,ウイルス感染の影響を解析する。 IRESについては,現在までに多数の活性保持配列を同定してきており,各個に活性を維持する最小領域を特定し,多重発現に有用と思われる候補配列を検討した結果、ハイポウイルス、ヴィクトリウイルス、フザグラウイルスが選抜された。3種類の各種オルガネラ標的蛍光タンパク質の同時発現系の構築準備を進めており,今後,実用性を検証する。 以上を通して、菌類ウイルス資源の利用法について,実用性および可能性を検証すると共に体系的に整理し、本研究を総括する。
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備考 |
名古屋大学 大学院生命農学研究科 植物病理学研究室
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