研究課題/領域番号 |
17H03951
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
上野 秀人 愛媛大学, 農学研究科, 教授 (90301324)
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研究分担者 |
当真 要 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (10514359)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水稲 / 土壌 / 養分動態 / 緑肥 / 雑草 / 有機農業 / 環境保全型農業 / 持続型農業 |
研究実績の概要 |
超低投入持続型水稲栽培(緑肥区)における水稲の生育調査、収量及び品質調査を行い、慣行栽培水田(対照区)と比較したところ、前年と同様に収量レベルや品質において両区に有意差はみられなかったが、緑肥区は対照区に比べて圃場毎のバラツキが大きかった。緑肥区は、土壌中の可給態窒素濃度が高く十分量の窒素が供給されており、カリウムも対照区と同様に推移した。可給態リン酸濃度は、栽培年数が長いほど低く推移した。特に生育後半のリン不足が生育に影響したと考えられた。形態別に測定すると、緑肥区はCa型リン酸が低かった。しかし、Al型とFe型リン酸は十分なことから、土壌を還元化させることによりAl型とFe型リン酸を可溶化させ、リン酸供給が行えると推察された。 水稲栽培前後に水田土壌を層位別に採取して元素分析したところ、雑草は休閑期に土壌表層へ鉄を移動させるとともに、緑肥と雑草がリンの可給態化を促進し、カリウム等の溶脱を抑制することを明らかにした。 土壌生物活性と養分動態の関係解明のため、土壌酵素活性の推移を測定した。緑肥区土壌のフォスファターゼ活性は、慣行区に比べ全期間で有意に活性が増加した。βグルコシダーゼ、プロテアーゼ活性も対照区に比べて高く推移し、生物による有機物分解が活発に行われていることが明らかとなった。雑草(スズメノテッポウ)のエンドファイトによる窒素固定活性には、緑肥区と慣行区の違いは見られず、むしろ圃場,酸素分圧による差が大きかった。雑草のエンドファイト微生物群集構造は緑肥区と慣行区で大きな違いは見られなった。 前年度に引き続き、田面水および土壌表層に生息する土壌生物を定期的に採取し、分類語に個体数や重量を測定した。前年度とほぼ同様な結果が得られ、緑肥区の昆虫類と貝類個体数が多く、1個体当たりの重量が有意に高いことを明らかにした。水稲生育後期では緑肥区の生物多様性指数が高く推移した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの3年間、水稲栽培データ、収量データは確実に蓄積されており、データの信頼性を高めている。窒素とカリウム、鉄については、長期間の低投入栽培においても養分欠乏が生じにくいが、リンについては留意しなければならないことが明らかになってきた。 土壌生物に関する調査については、2年間、昆虫類、クモ類、甲殻類、環形動物類、貝類他の個体数とバイオマス測定を行い、緑肥区が生物数が多く、しかも多様性が高いことが示され、十分な結果が得られたと考えられる。土壌微生物相のメタ解析については、生物活性インデックスとして、土壌酵素活性の測定を行い、データを収集している。 本栽培体系では、土壌温暖化ガス発生が大幅に増加することが明らかになったが、次年度の実験で、中干しによる発生抑制対策が適切に機能し、大幅に減少させることができ、予想以上の成果が得られた。 しかしながら、雑草中のエンドファイト微生物による窒素固定については、技術的な問題が残っており、改良が必要と考えられる。具体的には、一部のサンプルでDNA抽出や増幅がうまくいかないものがあったが、残っているサンプルを利用して、再測定を行う体勢を作っている。また、圃場全体の養分動態解明については、灌漑水由来の養分の測定を行い、養分バランス解明の高精度化を図る必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
3年目まで研究が終了し、目的とする課題の多くを達成できたが、年時間差もあることから、引き続き、水稲栽培、土壌養分、養分循環に関しては着実に圃場からデータ収集を行い、年度末には研究発表ができるレベルになるようデータの解析を行う。 水稲や雑草根圏の窒素固定活性、土壌酵素活性と養分動態の関係解明、土壌微生物相の解析、圃場全体の養分動態解明に今後注力する。 また、2~3年分のデータが集積したので、土壌生物生態、土壌中の可給態リンについては、学術論文を投稿する。また関係学会において研究発表を行う。 新型コロナウイルス蔓延により、愛媛大学から研究活動の停止措置がとられたため、すでに一部のデータをとることができなかったが、代替となるデータを測定して研究の質を維持するように努める。
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