研究課題
本研究では高等植物のカドミウム動態を制御する「カギ」となる物質として生理活性ペプチドのひとつであるグルタチオンに着目している。これまでの研究で植物の根に部位特異的に与えたグルタチオンが植物体の地上部へのカドミウムの移行と蓄積を選択的に抑制することを明らかにしている。また、このグルタチオンは主に根の細胞の外側で機能していることをアラビドプシスの形質転換体を用いた実験から確認した。このグルタチオンがアブラナのカドミウム動態に及ぼす影響をポジトロンイメージング技術を用いて可視化した。グルタチオン処理によって地上部基部におけるカドミウムの蓄積パターンが変化していることが明らかになった。ポジトロンイメージング実験で得られた画像データを解析した。その結果、基部上部におけるカドミウムの蓄積はグルタチオン処理によって抑制されていた。また、地上部基部の存在は根からのカドミウムの排出にも大きな影響を及ぼしていた。これらの実験結果は地上部基部が植物体内におけるカドミウム分配に重要な働きをしていることを示唆している。阻害剤を用いたカドミウム排出実験の結果はATPアーゼタイプの輸送体タンパク質がカドミウム排出に関与している可能性を示していた。また、トランスクリプトーム解析の結果、グルタチオン処理によってアブラナの根において約400個の遺伝子の発現が有意に変化していることが明らかになった。発現量が有意に変化した遺伝子の中には、重金属輸送体タンパク質や根の細胞壁の構造を制御するタンパク質など根におけるカドミウム動態への関与が考えられるタンパク質をコードする遺伝子が含まれていた。
2: おおむね順調に進展している
植物の根に部位特異的に与えたグルタチオンは複数のカドミウム動態の制御機構に関与することで、植物体の地上部へのカドミウムの移行と蓄積を抑制していることを学術論文の形で公表することができた。
地上部基部における遺伝子発現の網羅的解析を行い、カドミウムの返送機構に関与している遺伝子を検索する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Plant Science
巻: 305 ページ: 110822
10.1016/j.plantsci.2021.110822