研究課題/領域番号 |
17H03960
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
倉本 宣 明治大学, 農学部, 専任教授 (60287886)
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研究分担者 |
知花 武佳 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (10372400)
五味 高志 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (30378921)
伊東 静一 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (30792832)
岡田 久子 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員(客員研究員) (40460000)
金子 弥生 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (60413134)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | タヌキ / カワラニガナ / 時空間スケール / 土砂供給量 / わんど / たまり / 合意形成 / ネットワーク |
研究実績の概要 |
全国の河川において礫河原再生事業が実施されるようになり,その成果を評価できる状況になっている.そこで、個々の礫河原の空間的かつ時間的な規模と配置を物理学的かつ生物学的に検討するとともに、人間側について流域住民の意識調査を行って,ステークホルダーの意見をまとめ,合意形成の可能性を探る。 レキ河原再生には,さまざまな学術領域が関連しているので、さまざまな既往研究を網羅的に把握し,それぞれの研究領域が対象としている時空間スケールを整理した。粒度調査を実施したところ,粒度分布には上下流の特徴がみられない.土砂供給量に限界がある場合,いかに土砂をゆっくり流せるかが重要であるという示唆が得られた.礫河原まわりの「わんど」や「たまり」は洪水時の主流線上に多い。複断面化している場所では,主流線の下側に流れが集まりやすいことが示唆される。 礫河原固有植物の分布,特定外来種オオキンケイギクと近縁種の分布を,多摩川の主要な礫河原を踏査して調査した。礫河原固有植物は分布域の最も広い種はカワラニガナであった。外来種についてのネットワーク状況を検討するために,オオキンケイギク(多年草)と同じ属のハルシャギク(一年草)の分布を調査した。外来種にとっての礫河原のネットワークは分布拡大を容易にする役割を持つ。 近年,多摩川などの都市河川では,災害防除を目的とした川底部の浚渫工事にともなう河道の固定や,流水路の局所的な水深増加が生じている。これらの河川環境の変化の河川敷に生息するタヌキへの影響を,ため糞のDNA分析を用いて個体群分断の有無を調べたところ、川を渡ることがあることが判明した。 2018年5、6月,永田橋から羽村堰周辺の流域住民約2000世帯を対象に,河川敷の目標とする自然についてのアンケート調査を実施した。また、2019年2月に福生市中央公民館においてシンポジウムを行って、市民の意見を聴取した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の考えは、自然側と人間側の条件の統合であった。全国の河川において礫河原再生事業が実施されるようになり,実施後20年近くが経過している事例もあるので、その成果を評価できる状況になっている.この事業には対症療法的で,本来は堤内地にあったものの現在堤外地に存在する樹林地や草原を破壊するという批判がある.そこで,流域からの土砂供給量,河川内の土砂の堆積量,河川内の土砂の移動などから河川敷における礫河原の潜在的な面積を予測し,全域が礫河原と成るポテンシャルがない場合には,個々の礫河原の空間的かつ時間的な規模と配置を物理学的かつ生物学的に検討する必要がある.そこで水力学すなわち物理学と生態学すなわち生物学の研究者が協働して自然側からの礫河原の配置論を確立することにした。一方,現代における河川は社会の中に位置付けられた存在であることから,人間側について流域住民の意識調査を行って,ステークホルダーの意見をまとめ,合意形成の可能性を探ることが必要である. 物理学側では、時空間スケールの整理や多摩川の特性をまとめてきた。生態学側では、植物や動物の分布について、最新の手法と伝統的な手法を織り交ぜて研究を進めて成果を上げている。さらに、両者をつなぐわんどとたまりの研究が進行中である。自然側の成果を踏まえて市民に向けたワークショップを行ったところ、議論がたいへん活発であり、市民の関心の高さがうかがえた。その、市民の意思を理解しまとめていくために、社会科学の研究者だけでなく自然科学の研究者も説明に加わる小規模な集会を多数準備しているところである。そのため、自然と人間の統合という着眼点は成果を上げていると評価できる段階まで来ている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの2年間は、個別のテーマに基づく調査に加えて、合同調査、日本緑化工学会大会におけるシンポジウム、福生市におけるシンポジウムを開催してきた。今年度は最終年にあたるので、構成員がそれぞれのテーマで投稿論文を書くほか、できるだけ協働して複数の分担者で論文を書く。さらに、分離融合型の活動、すなわち、社会科学の研究者だけでなく自然科学の研究者も説明に加わる小規模な集会を多数開催して、理系の研究者と文系の研究者が協働して研究を展開する。協働の例としては、わんどとたまりの研究と、哺乳類の研究があげられる。定義としては、本流と湾の形状で一部つながった流水沿の止水域を「わんど」とし、本流と離れた低水敷の砂州上にある止水域を「たまり」、さらに高水敷にある止水域を「池」と区別している。哺乳類がえさを得やすいわんどの生物相を解明し、哺乳類のえさ場としてのわんどの意義を明らかにする研究が準備されていう。また、わんどやたまりと植物の生育、すなわち、わんどやたまりの周辺が裸地的になる要因の解明にも着手している。 社会学的な研究は、小規模な集会を多数回開くという方針の下で準備が進められている。研究成果を市民が学ぶだけでなく、成果を市民が道具として活用することが望ましい。それには大集会ではなく、小集会が適している。最後に、社会的に大きな影響を与える合意形成のプロセスを十分に参与観察してある程度は場合分けができるようにしたい。ダイナミックに社会を動かすような社会実験は市民にとっておもしろいはずである。ただし、我々が組織して、市民が行政に押し掛けるようにはなってしまうのは、今回の研究の範囲の逸脱であり、自分たちの活動が社会に与えてよい範囲を常に意識する必要がある。
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