研究課題/領域番号 |
17H03961
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
上村 松生 岩手大学, 農学部, 教授 (00213398)
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研究分担者 |
河村 幸男 岩手大学, 農学部, 准教授 (10400186)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 低温馴化 / 凍結傷害 / 低温シグナル / 光シグナル / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
異なる光と低温条件下での低温馴化:青色光受容体フォトトロピン(PHOT)と低温馴化機構の関係についてシロイヌナズナPHOT欠損変異体(phot1phot2)と野生型(gl1)を用いて比較した。低温馴化の前後での植物体成長率(葉面積)と光合成活性を測定したところ、白色光で低温馴化した場合はPHOT欠損変異体で成長率が悪く、低温馴化期間における光合成活性低下度も大きかった。青色光では、逆に、PHOT欠損変異体で成長は良かったが光合成活性には差がみられなかった。従って、低温下におけるPHOTの機能は青以外の光が共存するか否かで異なることが示唆された。次に、白色光条件で7日間低温馴化した場合、細胞膜機能あるいは光合成機能で評価した凍結耐性にはPHOT欠損の影響は認められず、白色光下ではPHOTが与える凍結耐性への影響は少ないと言えた。光合成活性で評価した場合、青色光下で低温馴化した場合はPHOTの有無に関わらず白色光条件ほど凍結耐性が上がらず、さらにPHOT欠損変異体で凍結耐性が高い傾向が見られた。また、低温誘導遺伝子(CBFsやCOR15a)はPHOTの有無にかかわらず低温で誘導された。一方、青色光誘導遺伝子(HY5、CHS、CHI)もPHOTの有無にかかわらず低温馴化で発現誘導された。以上の結果から、低温馴化中にPHOTを介して受容される青色光情報は光合成を介して植物の成長に関与するが、凍結耐性機構にはクリプトクローム(CRY)を介した青色光情報より影響が弱いことが示唆された。
タンパク質変動解析:低温馴化過程の温度や光質条件を変えた場合のプロテオーム解析およびデータ解析を継続している。今後、プロテオームの結果と遺伝子発現データなどを組み合わせ、温度と光質の認識機構を明らかにしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、植物の低温適応機構に大きな影響を与えている温度環境と光環境の相互関係を理解するため、さまざまな温度および光環境と光受容体構成の異なる植物体を組み合わせて低温・凍結応答性を解析する実験系を用いて研究を進めており、当初予想していたより面白い結果が得られており、集中した実験を進めている。本年度は赤色光受容体(フィトクローム)に加えて青色光受容体(フォトトロピン)欠損変異体を用いて白色光あるいは青色光下で低温処理する条件を用いて研究を行い、昨年度以前に得られたもう一つの青色光受容体(クリプトクロム)を用いて得られた結果と比較して考察を加えた。その結果、同じ波長域の青色光を受容する二つの受容体では低温処理中の応答や低温馴化に応答した凍結耐性変動などに違いがあることが明らかになった。低温および青色光に応答する遺伝子にも、これら二つの青色光受容体の有無による違いも見られ、今後、植物が低温下でどのように青色光受容体を使い分けているのかなどの興味深い研究が可能になってきた。また、自然界での低温馴化機構を考え、単色光ではなく混色光に中で特定の単色光割合を変えた際の光受容体の役割の解析を開始した。
プロテオーム解析は、細胞膜だけではなく他の細胞内画分を含めた解析を特定の光受容の有無(光受容体欠損株を用いる)を考慮して解析する計画で進めている。現在までに、いくつかのサンプルの質量分析器によるデータ収集を終えたが、さらに繰り返し実験などでデータの信憑性を高めることが必要であり、さらには、共通機器である質量分析器の不具合やスケジュールの混雑などで、計画に比べて若干の遅れが見られている。今後、プロテオーム実験を継続し、当研究室に蓄積されている低温馴化に関わるプロテオーム・トランスクリプトームデータを組み合わせたさらに深化させた解析も計画している。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度も植物が温度と光情報を受容し、それらの情報をどのように統合させて、低温馴化機構に反映させているのかについて、さらに異なった温度と光条件のもとでそれぞれの光受容体の関与を解析する手法を用いて研究を進める。同時に、低温と光に応答したプロテオーム情報を得るため、いくつかのオルガネラに焦点を当てたプロテオーム解析やタンパク質のリン酸化に焦点を当てたプロテオーム解析を計画している。
温度と光情報を受容した植物の応答を表現型から解析する項目については、野生型や光受容体欠損株と多様な光条件(白色光と単色光の混合を含む)で低温処理を行い、低温に応答した植物の成長特性(成長量や光合成活性で評価)や低温馴化の効率(凍結耐性で評価)を詳細に調べ、光質の違いによる低温馴化制御機構や自然界における低温馴化機構に対する光質の影響の理解を目指す。
プロテオーム解析に関しては、2017年度から継続している細胞内オルガネラに関するプロテオーム解析を進め、低温と光の影響を詳細に解析するとともに、白色光下で低温馴化したサンプルとの比較から、光質の影響を取り出すことを試みる。さらに、低温馴化機構に対する質的なプロテオーム応答を解析する基盤的なデータを得るため、リン酸化プロテオミクス実験を始める。最初は、全タンパク質を対象とした実験を行い、時間があれば膜画分に限ったリン酸化プロテオミクスを行う。この実験は、低温や光の情報伝達を解析する際にも効果的に利用することが可能であり、本研究プロジェクトに限らず、今後の植物の低温応答および低温馴化機構へのタンパク質の関与を理解する上での貴重なデータベースとなり得るものと考えられる。
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