研究課題/領域番号 |
17H03966
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
竹川 薫 九州大学, 農学研究院, 教授 (50197282)
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研究分担者 |
樋口 裕次郎 九州大学, 農学研究院, 助教 (50732765)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分裂酵母 / ピルビン酸 / 酸性糖鎖 / 小胞輸送 / 糖タンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究は真核微生物ではほとんど報告のない、糖鎖へのピルビン酸の付加機構と生理的役割について明らかにすることが目的である。 今年度は以下の項目について明らかにすることができた。 1.分裂酵母にはモデル生物として最も良く知られているSchizosaccharomyces pombeの他に、S. cryophilus, S. octosporus, S. japonicusと3種が報告されている。pombe以外の分裂酵母にもピルビン酸化糖鎖が付加されているかを確認するために、アルシアンブルー染色により細胞表層糖鎖の酸性化の定量を行った。その結果、pombe以外の3種はピルビン酸付加に重要な遺伝子が全てゲノム上に存在するにもかかわらず、ピルビン酸化糖鎖の量は極めて低いことがわかった。今後は遺伝子の発現と糖鎖の構造解析を行うことにより、そのことをさらに明らかにしたい。 2.分裂酵母のピルビン酸化した糖鎖を遊離する酵素を土壌微生物から検索を行った。その結果、Bacillus属と同定した細菌がピルビン酸化ガラクトースを遊離する酵素活性を持っていることがわかった。どのような酵素であるかを明らかにするため、本細菌の全ゲノム塩基配列を決定した。これらの中から候補グリコシダーゼ遺伝子を大腸菌で発現させて酵素活性について調べた。候補遺伝子の中からピルビン酸化ガラクトースを遊離するグリコシダーゼファミリー1(GH1)に属する酵素が本酵素活性を示すことを証明できた。本酵素がなぜピルビン酸化ガラクトースを遊離できるかを明らかにするために立体構造解析を行った。構造解析の結果、ピルビン酸が付加するガラクトースの6位付近の重要ないくつかのアミノ酸を同定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分裂酵母の糖鎖へのピルビン酸付加に重要な複数のPvgタンパク質については、そのゴルジ体局在を証明することができたため、分裂酵母において糖鎖へのピルビン酸化がゴルジ体内腔で起こっていることを明らかにすることができた。しかし従来報告されているタンパク質とはほとんど相同性のないPvg2とPvg5というタンパク質については、未だ酵素活性などの機能を明らかにすることができていない。 分裂酵母以外の真核微生物からピルビン酸転移に重要と考えられる遺伝子の調製に複数成功した。そしてこれらの遺伝子を大腸菌で発現させて、タンパク質を生産することには成功している。ただし、これらの酵素活性については明らかにすることができていない。この結果は、分裂酵母で使用した基質であるパラニトロフェニルガラクトースが分裂酵母以外では基質ではない可能性がある。そこで真核微生物由来のピルビン酸転移酵素の基質を検索したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
分裂酵母以外の真核微生物ゲノムに存在する、糖鎖へのピルビン酸転移に重要な遺伝子が本当に活性を有しているのか、以下の項目について検討を行う予定である。 1.FusariumやTrichodermaなどの糸状菌の糖タンパク質や細胞壁に実際にピルビン酸が含まれているのか解析を行う予定である。各種微生物から菌体を調製して、糖タンパク質を精製する。そしてNMR分析によりピルビン酸特有なピークが糖鎖中に存在するかを解析したい。 2.分裂酵母のピルビン酸付加が起こらない変異株(pvg変異株)に分裂酵母以外の候補遺伝子を導入することにより、酵母細胞内でのこれらホモログ遺伝子の機能解析を試みたい。もし活性を示した場合には、さらにその諸性質について検討を行う予定である。
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