研究課題
カルシウム(Ca2+)は、植物細胞の主要な細胞内シグナルの一つである。植物の傷害応答や感染防御応答では、もっとも早い細胞応答の一つとして、細胞質ゾルCa2+濃度の一過的上昇が生じる。しかし、植物細胞のCa2+シグナルの発生に関わる分子機構や制御機構については、Ca2+動員に関わるCa2+チャネルを含めて多くのことがわかっていない。また、動物細胞では、ミトコンドリアが細胞内Ca2+制御で重要な役割を果たすことがよく知られているが、植物細胞のCa2+制御におけるミトコンドリアや葉緑体の働きについてもほとんど知見がない。先行研究で、葉緑体チラコイド膜に局在するCASタンパク質が、気孔応答の制御に関わることを報告している。乾燥や病原体感染は気孔閉口を誘導するが、その時に孔辺細胞の細胞質でCa2+シグナルが生じることが知られている。そこで、葉緑体CASタンパク質に焦点を当て、気孔制御における葉緑体の役割を解析し、葉緑体によるCa2+制御の可能性を検討した。その結果、CASが病原体感染応答に伴う気孔閉口に特異的に関与しており、細胞膜のROS生成酵素RbohD活性を制御している可能性を示した。また、CASのリン酸化が光依存的気孔開口と関係することも見いだした。さらに、植物の接触および傷害刺激に対する局所応答機構について、細胞膜ROS生成酵素Rbohの役割についても解析した。また、植物細胞においてもミトコンドリアが細胞質Ca2+濃度制御に働いている可能性を示すことができた。
2: おおむね順調に進展している
(1)気孔制御における葉緑体の役割の解析、(2)植物の接触刺激応答とROS、(3)ミトコンドリアによる細胞質Ca2+制御について研究を行なった。(1)気孔制御における葉緑体の役割の解析: CASはチラコイド膜に局在するCa2+結合タンパク質で、フラジェリンペプチド(flg22)が引き起こす気孔免疫応答に関わることがわかっている。まず、ABA、SA、ジャスモン酸が誘導する気孔閉口にCASは関係せず、flg22による気孔閉口を特異的に制御していることを明らかにした。flg22は、Ca2+シグナルを生じるとともに、Rbohを活性化しROSバーストを引き起こす。それぞれに対するCASの関わりを検討し、CASはRbohによるROS生成に特異的に関わることも明らかにした。また、CASは光依存的にリン酸化されることがわかっており、CASリン酸化の評価を行うとともに、気孔制御との関係を検証した。その結果、CASが葉緑体レドックス依存的にリン酸化されること、さらにCASの脱リン酸化が気孔閉口を引き起こす可能性が示された。(2)植物の接触刺激応答とROS: 接触刺激を受けた組織で、免疫応答遺伝子群の発現誘導が起こることを明らかにした。遺伝子発現応答に先立ってCa2+シグナルの発生とROS生成が起こるが、局所的ROS生成について細胞膜のRbohFが重要な役割を担っていることを明らかにした。(3)ミトコンドリアによる細胞質Ca2+制御: 電子伝達阻害剤DBMIBによってミトコンドリアを阻害することで、細胞質のCa2+濃度の一過的上昇が生じることを見出し、植物ミトコンドリアが細胞質Ca2+濃度制御に関わっている可能性を示した。
(1)気孔制御における葉緑体の役割の解析: 今年度の研究から、植物免疫応答において、葉緑体タンパク質CASが細胞膜のROS生成酵素RbohDの活性を制御している可能性が示された。RbohDはCa2+によって制御されることが知られている。今後は、RbohD活性化とCa2+制御における葉緑体タンパク質CASの役割を詳細に解析する。また、孔辺細胞のCa2+応答をCASが制御している可能性についても明らかにする必要がある。光による気孔開閉の制御に葉緑体が関与することが指摘されている。CASの光依存的リン酸化は、この制御に関係している可能性がある。CASのリン酸化が機構開閉を制御する分子機構を解析することで、その可能性を検証する。また、その生理学的意義についても検討を進める。(2)植物の接触刺激応答とROS: 接触刺激によって生じるCa2+応答について、長距離シグナル伝達におけるCa2+応答の発生機構と役割にはある程度わかっているが、局所応答については良くわかっていない。今後、局所的なCa2+応答の発生機構、葉緑体やミトコンドリアの関与の可能性について検討する。(2)ミトコンドリアによる細胞質Ca2+制御: ミトコンドリアがCa2+応答を誘導する機構、さらにミトコンドリア阻害が誘導する遺伝子発現制御との関係を検討する。
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