研究課題/領域番号 |
17H03968
|
研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
椎名 隆 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (10206039)
|
研究分担者 |
野村 裕也 岐阜女子大学, 家政学部, 准教授 (00547028)
熊崎 茂一 京都大学, 理学研究科, 准教授 (40293401)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | カルシウム / 葉緑体 / ミトコンドリア / ROS / 感染防御 / 接触刺激 |
研究実績の概要 |
カルシウム(Ca2+)は、感染防御応答や障害・接触など植物の様々な細胞応答で重要な細胞内シグナルとして働く。細胞質ゾルのCa2+濃度の制御には、細胞外からの流出入に加え、小胞体や葉緑体、ミトコンドリアなどのオルガネラが重要な役割を果たしていると考えられている。しかし、植物細胞のCa2+シグナル形成に、これらのオルガネラが具体的にどう関わっているかについて、特に分子レベルの知見は乏しい。 CASは葉緑体に局在するCa2+結合タンパク質で、細胞質や葉緑体内のCa2+濃度制御に関わることが報告されている。フラジェリンペプチド(flg22)などのPAMPは、免疫応答の発動に先立って、細胞質ゾルと葉緑体ストロマでのCa2+濃度上昇を引き起こす。これまでに、(1)CASがレトログレードシグナルを介したSA合成転写因子群の発現制御に関わること、(2)CASが細胞膜のROS生成酵素RbohDの活性化に必要であることを見出している。この結果は、CASが植物免疫応答と光合成のクロストークで重要な役割を果たしていることを示唆している。今後、この制御におけるCASとCa2+シグナルの関係を探る。 接触などの機械刺激に対する初期応答としても、細胞質ゾルCa2+濃度の素早い上昇が知られている。本研究では、葉における接触応答Ca2+シグナル発生に細胞内Ca2+ストアが関係すること、葉緑体ストロマでもCa2+濃度上昇が見られることなどを明らかにした。さらに、接触刺激が細胞膜のROS生成酵素RbohFを活性化してROSを生成すること、RbohFが接触形態形成に関わることも見出した。さらに、RbohFの活性化にCa2+依存性タンパクキナーゼのCPK1/2が関与することも明らかにしている。これらの研究から、ROS生成に先立つCa2+シグナルが接触刺激応答で重要な役割を果たしていることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)植物免疫応答における葉緑体Ca2+結合タンパク質CASの役割: flg22などのPAMPに対する初期応答として、細胞質および葉緑体ストロマでのCa2+濃度上昇、RbohD活性化によるROSバーストの発生、SA合成などの防御遺伝子の発現誘導が起こる。これまでに、RbohD活性化と初期応答防御遺伝子の発現誘導にCASが関わることを明らかにしてきた。さらに興味深いことに、PAMPによるRbohD活性化が、事前に与えた傷害刺激によって増強されること。この増強がCASに強く依存していることを見出した。この結果は、感染防御応答と傷害応答が密接に関係しており、その制御に葉緑体が関わる可能性を示唆している。Ca2+シグナリングは、免疫応答と傷害応答の両方と密接に関係している。この知見に注目し、Ca2+シグナルの形成や応答と、葉緑体CASの関係の解析をさらに進めていく。 (2)植物の接触刺激応答とCa2+シグナル: 植物に触れたり一定の圧力を加えると、感染防御応答の場合と同様に、細胞内Ca2+濃度上昇やROS生成、防御関係遺伝子の発現誘導が見られる。これまでに、Ca2+濃度上昇やROS生成が主に表皮細胞と孔辺細胞で生じることを見出すとともに、細胞膜のRbohFがROS生成に関わり、その活性化にCa2+依存タンパクキナーゼのCPK1とCPK2が関与することを明らかにした。さらに、接触刺激が引き起こす成長抑制にRbohFが関わることも見出している。これらの結果は、接触刺激応答におけるCa2+シグナルの重要性を示している。また、接触刺激による細胞質ゾルノCa2+濃度上昇には細胞内Ca2+ストアが関係することも見出した。接触刺激に伴い、葉緑体ストロマのCa2+濃度も上昇することから、接触刺激応答の初期過程に葉緑体が関与する可能性を考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)植物免疫応答における葉緑体Ca2+結合タンパク質CASの役割: 今後は、CASによるRbohD活性制御とCa2+制御に注目し、解析を進める。RbohD活性は、はEFハンドへのCa2+結合とタンパク質リン酸化による制御を受けると考えられている。予備的な研究結果として、CASノックアウト変異体でRbohDのリン酸化パターンが変化していることを示している。このことは、CASがタンパクキナーゼあるいはホスファターゼの活性制御を介してRbohDを活性化している可能性を示唆している。今後、CAS依存のリン酸化部位の同定や、CASが制御するタンパクキナーゼの解析を進め。その実態を明らかにする。また、RbohD活性化と障害刺激との関係についても、その制御にCa2+が関与する可能性を含めて解析を進める。さらに、植物免疫におけるCa2+応答に関わるCa2+チャネルの候補としてCNGC5に注目している。CNGC5の機能解析も継続して進める。 (2)植物の接触刺激応答とCa2+シグナル: まず、接触刺激による細胞質ゾルのCa2+濃度上昇に葉緑体が関与する可能性を検証する。興味深いことに、接触刺激に対するCa2+応答は、葉では細胞内ストア依存であるのに、根では細胞外からの流入に依存している。地上部と根のCa2+応答の違いを指標に、葉緑体が接触刺激Ca2+応答に果たす役割を評価する。さらに、葉緑体ストロマのCa2+濃度上昇の役割についても検討を進める。また、一過的発現系を利用し、CPK1/CPK2によるリン酸化が直接RbohF活性化に関与すること、およびその制御機構の詳細について解析する。さらに、RbohFni依存したROS生成と成長抑制との関係にも取り組む。 以上の研究を進め、植物免疫応答と接触刺激応答におけるCa2+シグナル都葉緑体の関係について、総合的な理解を目指す。
|